研究課題/領域番号 |
21K07922
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
池嶋 健一 順天堂大学, 医学部, 教授 (20317382)
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研究分担者 |
今 一義 順天堂大学, 医学部, 准教授 (30398672)
山科 俊平 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (30338412)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 代謝性障害性脂肪肝疾患(MAFLD) / 非アルコール性脂肪肝炎(NASH) / 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) / サイトカイン・ストーム / COVID-19 / 細胞死 / 腸内細菌叢 / リポポリサッカライド(LPS) |
研究実績の概要 |
本研究では代謝障害性脂肪性肝疾患(MAFLD)が、肝病態進展に加えてCOVID-19など多くの急性疾患の予後に深く関与する“サイトカイン・ストーム(CS)”の発生に与える影響を解明することを目的としている。2021年度は、肥満・糖尿病を自然発症するKK-Ayマウスを用いて、CS発生における肥満および脂肪肝の影響を解析した。KK-Ayマウスおよび対照群としてC57Bl/6マウスに高脂肪食ないしコントロール食を4週間摂餌させてMAFLDモデルを作成し、リポポリサッカライド(LPS, 5mg/kg BW)を腹腔内投与してCSを惹起した。コントロール食を摂餌したC57Bl/6マウスはLPS投与後全てが24時間生存したが、高脂肪食を摂餌したC57Bl/6マウスでは致死率が22%であった。一方、KK-Ayマウスではコントロール食摂餌群のLPS投与後の致死率が11%であるのに対し、高脂肪食摂餌群では70%と有意に致死率が上昇した。高脂肪食摂餌により、C57Bl/6マウスでは極軽微な肝細胞内脂質滴を生じるのみであったが、KK-Ayマウスでは著明な肝細胞内脂質貯留に加えて肝細胞膨化など脂肪肝炎の所見を呈した。LPS投与後には高脂肪食摂餌C57Bl/6マウスでも肝小葉内に巣状壊死を認めたが、高脂肪食摂餌KK-Ayマウスでは、肝病理組織像はより広範囲な肝細胞傷害と著明な炎症細胞浸潤を認め、肝組織内にはTUNEL染色陽性のアポトーシス細胞の増加が観察された。従って、当初の仮説通りMAFLDモデルKKAyマウスではLPS感受性が亢進してCSが誘発されやすく、肝障害を含む多臓器不全が惹起されて致死率が上昇することが実証された。引き続き、腸管マイクロバイオーム由来因子による肝内自然免疫系の感受性亢進や、パイロトーシスの関与などに着目して、傷害増強メカニズムを解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説通り、MAFLDモデルKKAyマウスではLPS感受性が亢進してCSが誘発されやすく、肝障害を含む多臓器不全が惹起されて致死率が上昇することが実証された。これは脂肪肝がCOVID-19の予後増悪因子であるという近年の報告にも合致する結果であり、モデル作成が順調に遂行されたことにより、今後のメカニズム解析や実験治療アプローチの検証が予定通り進行可能である。本研究の目標である、脂肪肝における肝細胞障害および免疫細胞活性化の機序解明と、サイトカイン・ストーム関連疾患の予後改善に資する実験治療アプローチにも充分に期待がもてる。
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今後の研究の推進方策 |
脂肪肝におけるサイトカイン・ストームの増悪機序を分子レベルで解明する。脂肪毒性の評価としては、肝組織内の脂質変化についてリピドミクス解析を行う。また高脂肪食摂餌による腸管マイクロバイオームの変化を明らかにし、腸管のタイトジャンクション関連蛋白の発現を解明する。さらに、腸管由来因子が肝細胞(脂肪化、ROS、サイトカインの発現、酸化ストレス、アポトーシス、パイロトーシス、フェロトーシス)、クッパー細胞(ROS、M1およびM2サイトカインの発現およびカルシウム濃度上昇)および類洞壁細胞(接着因子の発現、アポトーシス)、NK細胞/NKT細胞/T細胞(サイトカインの産生およびサイトカインカスケードシグナル)に与える影響を解析し、腸管連関が肝内の各細胞に与える影響を明らかにする。腸肝連関を介した肝内の自然免疫の制御の変容と肝炎増悪の機序を解明し、新規診断、治療法につながる基礎的知見を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
学内動物施設の収容能力に限界があり、動物モデル作成が年度の後半にかかった関係上、委託解析や消耗品購入などの一部費用を次年度に繰り越す必要を生じたため。
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