胃癌のサブグループであるEpstein-Barrウイルス陽性胃癌(EBV胃癌)は、EBウイルスへの感染と、それに続くDNAメチル化によって癌抑制遺伝子が不活性化され 発癌に至る。しかし、上皮細胞へのウイルス感染から発癌至るエピゲノム制御は明らかではない。本研究ではEBV胃癌発癌の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 まず、EBウイルス感染細胞において細胞老化が誘導されるか検討したが、EBウイルス感染による酸性ガラクトシダーゼ活性の増加は見られなかった。また細胞核の大きさで細胞を分取した場合にも有意な増殖速度の差異は見いだせなかった。 次に、DNAバーコード発現型GES1細胞を用いてEBウイルス感染時の宿主細胞の不均一性について解析を行った。EBウイルス感染前後の細胞からDNAバーコード配列を増幅し、シークエンシングによって比較した結果、初期細胞集団に含まれる約850種類のバーコードの うち、5種類のバーコードが再現良く濃縮していた。 さらに、EBウイルス感染前後の細胞集団を用いてシングルセルRNAseq解析を行った結果、GES1細胞はその遺伝子発現から大きく3つのサブクラスターに分類され、ケラチン遺伝子がサブクラスターごとに特徴的な発現を示していた。mRNAに転写されたDNAバーコードに基づいて各シングルセルがどのサブクラスターに由来するかを検討したところ、エリートクローンはそのうちの1つのサブクラスター(KRT17 High)に濃縮していた。さらにこのサブクラスター特異的な細胞膜タンパク質が抽出され、エリートクローンのマーカーとして機能する可能性が示唆された。 以上より本研究では、胃上皮細胞でのEBウイルスの感染前後における細胞集団の動態を観察し、EBウイルスの感染あるいは維持に有利に働く形質を抽出した。
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