研究課題
令和3年度における本研究では、肝組織構成細胞のうち、肝非実質細胞とB型肝炎ウイルス(HBV)感染肝細胞との共培養を行い、どのような細胞外からの影響を受けたシグナル伝達系がHBV感染に関連して変動するかについて評価した。特に血管内皮細胞や肝類洞内皮細胞、また肝星細胞の培養株とHBV感染肝癌培養細胞株やHBV感染初代肝培養細胞との細胞間の接触がある状態での共培養、もしくはトランズウェルを介した細胞間の接触を伴わない共培養を行った。その上で、HBV感染や核酸アナログ導入の有無など各条件における差異に関する実験を行った。得られた肝細胞からのRNA、cDNAや蛋白をリアルタイムPCRおよびウエスタンブロッティングで評価した結果、非接触の共培養においても接触の共培養においても、両内皮細胞との共培養でHBV感染肝細胞にてHBVの複製亢進が認められた。トランズウェルを介した系からの結果からは、接触系として必須の細胞間シグナルというよりは、何らかの液性因子が肝細胞におけるシグナル伝達系に関与していることが判明した。また、このような条件では、遺伝子発現や蛋白解析の結果からは、mTOR、Akt-PI3Kシグナルが亢進していることも明らかとなった。また、核内受容体を呈する転写因子であるHNF4alphaが、共培養により高発現となることが示された。一方で肝星細胞とHBV感染肝細胞との共培養では、肝細胞におけるHBVの複製、上記のシグナル伝達系に影響を与えなかった。シングルセル解析については、特に非実質細胞と肝細胞の間には遺伝子発現状態の特異的な差異が認められた。
2: おおむね順調に進展している
本研究開始後、肝組織を構成する細胞間に液性因子が作用してHBV感染肝細胞におけるHBVの複製が影響を受けることが明らかになったことは大きな進展である。令和3年度の研究では、トランズウェルを介した共培養の系で、厳密に培養細胞の条件、細胞数、細胞密度を設定し、特にそれぞれの2種類の細胞間では至適培地の条件が大きく異なるため、その条件設定に本年度では特に重視した。一方で、シングルセル解析については、特に肝組織のサンプル収集の面からは十分でなかった。また、現在肝細胞と内皮細胞との相互作用に関する解析は進展している一方で、免疫細胞の解析についてはその進展は遅れている。
令和3年度の研究では液性因子が内皮細胞から発してHBV感染肝細胞におけるHBV複製を促進することが判明したが、今後の研究としては、どのような因子が細胞間シグナルを介してHBVの複製に作用しているかについて明らかにする。具体的にはその候補因子を単純に添加してみた状態でどのような変動がみられるか、またその先の評価としてその因子に対する阻害剤によりHBVの複製を含めた状態にどのように影響が加わるかについて評価する。また、HBV感染核内の動態に対する影響、特にHBV cccDNAや感染維持に関する因子に影響を与えているか評価する。
COVID-19の拡大により、移動制限が生じ、予定していた参加学会がオンライン開催・発表となったためである。今後の使用計画として、参加学会のうち一部は翌年度開催となったものもあり、その参加費用に充当する。
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PLOS ONE
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