研究課題
本研究により、肝非実質細胞に属する内皮細胞より分泌される液性因子が、肝実質細胞に対しシグナル伝達系に影響を与え、B型肝炎ウイルス(HBV)の複製に影響を与えることが判明した。肝組織における内皮細胞は血管内皮細胞および類洞内皮細胞が存在するが、これらに関する実験としてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)、肝類洞内皮細胞(LSEC)の培養細胞株を利用し、HBV感染肝細胞との相互連関を評価した。さらに異なる肝非実質細胞として肝星細胞もその培養細胞株を利用して評価した。令和4年度の研究では、肝細胞に関する各種成長因子について、肝非実質細胞から分泌され、HBV複製の病態に影響を与えているかについて評価を行った。成長因子そのものを肝細胞に投与すると、HBV感染初代肝培養細胞でも、HBVを複製する培養細胞株でもその複製は増強した。一方で、成長因子に対する抗体もしくはそれらを阻害する物質を投与することにより、HBVの複製は低下し、それとともに肝細胞内における特異的なシグナル伝達経路に関する因子は減弱し、影響を受けることが判明した。以上より、このような成長因子が内皮細胞から分泌され、異なる種類の細胞間でも、組織内の肝細胞におけるHBV複製に影響を与えることが示唆された。また、さらにHBV cccDNA(HBV covalently closed circular DNA)の増減にも影響を与えることがリアルタイムPCRから判明し、この実験系はHBV感染維持にも関与する重要な機構であり、肝組織内で肝炎ウイルスの機構を巻き込んだ特別な相互連関であるとされた。
2: おおむね順調に進展している
本研究開始後、肝組織を構成する細胞間に液性因子が作用してHBV感染肝細胞におけるHBVの複製が影響を受けることが明らかになったことは大きな進展である。また、液性因子である成長因子がもたらす肝細胞内でのシグナル伝達の変化、HBV複製の変化が影響を受けることを、液性因子の濃度を含めた至適条件設定により確認することができた。HBV複製に対する影響は明らかにしたが、HBV cccDNAに影響を与えることをリアルタイムPCRで確認したものの、他のウイルス側因子やウイルス生活環に対する詳細な影響の実験及び解明は未だ不十分と考えている。
令和4年度の研究では液性因子である成長因子が細胞間シグナルを介してHBVの複製に作用し、その阻害でも有効な結果が得られた。令和5年度の本研究では肝組織環境で再現されているか、本研究はその機構を示唆するモデルとなるかが重要であり、特にHBV感染や複製、更には維持に関連した系でどのように反映されるかについて、評価していく。これらの今後の研究は、HBVを維持する機構についてさらに解明されると考える。
COVID-19の拡大により移動制限が生じ、予定していた参加学会がオンライン開催・発表となり、旅費の執行額が減額となった。しかしながらオンラインでの参加環境を確立するためにコンピュータ端末や各種ソフトウェアの購入を行った。今後の使用計画としては、現状では現地参加学会が多くなる傾向にあり、その学会参加費及び旅費に充当する。
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