平成4年度までの研究では、肝組織環境において内皮細胞から産生される成長因子が肝細胞におけるHBVの複製を制御することを培養細胞を利用して示し、さらに成長因子を添加したり、阻害したりする実験を行った。平成5年度の研究においては、成長因子の添加濃度によりHBVの複製効率が異なることが判明した。すなわち、添加濃度が比較的低濃度であればHBV複製が増強する一方、高濃度になるとHBV複製の増強は得られなくなる、という点が新たに判明した。これまで類洞内皮細胞、血管内皮細胞と肝細胞との共培養を行ってきたが、その際に培養上清に含まれる成長因子の濃度は低濃度であり、HBVの複製は成長因子が単に多ければ増強するものではないことが判明した。しかし、低濃度の成長因子を肝細胞に添加すると、肝細胞内での下流シグナル、とりわけAkt-mTORシグナル系は正に作用し、肝細胞に特異的な転写因子も増強することも示された。さらに肝細胞内HBV cccDNAの亢進はその成長因子の低濃度で有意に示された。以上からは細胞間、とりわけ内皮細胞と肝細胞との相互連関において、HBV cccDNAという肝内HBVの潜伏に関わるウイルスゲノムが、細胞外からの因子により大きく影響することが示された。この実験系はHBV感染維持やHBV消失を目的とする創薬開発にも関連する重要な機構であり、肝組織内で肝炎ウイルスのウイルス生活環を巻き込んだものであるとされた。
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