本研究では、大腸がんにおいてBMP/SMAD経路とEGFR/MEK経路にこれまで報告のないクロストークが存在する可能性を検証すべく、大腸がん患者由来オルガノイド培養系(CTOS法)を用いた検討を行った。約20症例から調製し培養したCTOSラインを用いて感受性アッセイを行ったところ、大腸がん症例の中に、BMP阻害によりEGFRタンパク量が著しく減少する症例群の存在を確認した。免疫沈降法により検討したところ、EGFRはBMP阻害剤LDN193189処理により高度にユビキチン化されており、またタンパク分解酵素阻害剤の併用によりEGFRの減少が抑制されたことから、BMP阻害により分解が促進されることが明らかとなった。一方、BMP受容体とEGFRの直接的な会合の証拠は得られなかった。in vivoでの検討の結果、BMP阻害とMEK阻害剤の併用が効果的であるオルガノイド、および併用効果の見られないオルガノイドに層化することができた。併用効果がみられる群においては、BMP阻害によってERBBファミリーのnegative regulatorとして知られているLRIG1の発現が強く誘導される傾向を認めた。LRIG1のノックダウンにより、BMP阻害による増殖抑制が減弱したことから、LRIG1誘導がこの現象の機序の一つであると示唆された。また、BMP阻害によるLRIG1の誘導は、BMP阻害による増殖抑制と相関しており、BMP/MEK阻害剤併用療法の効果予測のツールになる 可能性が考えられた。これらの成果につき、Cancer Science誌に報告した。 さらに、LDN感受性、耐性を含む10症例のオルガノイドに対するRNAseqを行ったところ、LRIG1が最も感受性に相関するDEGとして抽出され、LDN感受性を制御する因子としてLRIG1が最も影響力をもつことが検証された。
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