肝癌における治療戦略として、発癌の原因となる遺伝子(癌ドライバー遺伝子)の変異を起点とした分子標的薬の開発が進められてきた。しかしながら、この変異を検出できない肝癌も多く存在することから、治療が困難である一因となってきた。申請者らはこれまでに、マウス肝臓の一部の肝細胞に活性型YAPを一過性に遺伝子導入すると、遺伝子導入されていない正常な肝細胞が癌化することを見出した。この知見は、活性型YAPが導入された肝細胞が「発癌誘導因子」を発現し、周囲の肝細胞に作用・癌化を誘発していることを示唆する。そこで本研究課題は、癌ドライバー遺伝子変異に“非”依存的な肝発癌の分子機構の解明を目的とした。2021年度では、活性型YAPがもたらす遺伝子発現変化を解析した。活性型YAPを発現するプラスミドをマウスの尾静脈からHTVi法により投与することで、活性型YAPを一部の肝細胞に過剰発現させた。また、このとき遺伝子導入された肝細胞は蛍光タンパク質tdTomatoを発現するようにした。投与から1日、3日、1か月後のマウス肝臓をコラゲナーゼ処理することで肝細胞を単離し、FACSを用いてtdTomato陽性肝細胞を分取した。次に、これらの細胞からRNAを採取し、RNA-sequenceによる網羅的遺伝子発現解析を行った。時系列の発現変化から活性型YAPがもたらす「発癌誘導因子」の候補を絞り込んだ。今後はこれらの因子の過剰発現もしくは遺伝子欠失マウスと活性型YAPの過剰発現を組み合わせることで、「発癌誘導因子」の同定を行う。
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