研究課題/領域番号 |
21K07959
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 哲也 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (10288508)
|
研究分担者 |
林 由美 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (30632707)
伊藤 弘康 藤田医科大学, 医学部, 教授 (80373075)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 肝細胞移植 / 肝再生不全 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
TK-NOGをC57BL/6あるいはBalb/cに戻し交配した正常免疫系を有するマウスHSVtk/BL6、HSVtk/Balbへのガンシクロビル(GCV)投与後に、GFPトランスジェニックマウス(GFPtg、BL/6)からの肝細胞を移植するモデルを用いて研究を進めた。GFPtg由来幹細胞のHSVtk/BL6への移植系を同系(MHCマッチ、Auto)、HSVtk/Balbへの移植系を異系(MHCミスマッチ、Allo)とし、移植肝細胞の生着・増殖過程とその機序について検討した。HSVtkへのGCV投与はチミジンキナーゼ発現肝細胞のアポトーシスを惹起するが、生存した肝細胞にも正常な細胞分裂はみられず、肝細胞移植を行わないモデル(Sham)では、肝細胞の膨化、核の腫大が移植4~8週後にかけて顕著となる。Shamは肝細胞のDNA合成障害をベースとした肝再生不全モデルと考えられ、実際に肝内mRNA発現の検討では細胞老化マーカーであるp16、p21発現が移植後1週後より上昇し、特にp16の発現上昇は8週後まで持続していた。これに対しAutoではp16、p21発現は移植後1週後に低下し、その後一過性の上昇はあるものの最終的にShamよりも低値で推移し、移植8週後には肝細胞の形状、肝の組織構造も正常化した。Alloでは移植後早期のp16、p21発現の上昇はみられないものの、p16発現は経時的に上昇し、SASP因子であるTGF-bも比較的高値が持続する。そして、最終的にはShamより肝細胞の膨化、核の腫大の程度は大きく、肝線維化も顕著となる。Autoでは肝細胞移植後の炎症細胞浸潤、TNF-a産生が生存シグナルとなる可能性、Alloでは移植幹細胞の拒絶を契機としたSASP産生が細胞老化の促進に作用する可能性を考え、その機序を中心に解析を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HHSVtk/BL6及びHSVtk/Balbへのガンシクロビル(GCV)投与後にGFPtg(BL/6)由来肝細胞を移植する系を、それぞれ同系(Auto)、異系(Allo)移植モデルとして用いたが、HSVtk/BL6とHSVtk/Balbとでは、必要なGCVの投与量、投与後の遺伝子発現変化の動態などがやや異なるため、AutoとAlloモデルの単純な比較が難しくなった。しかし、これらの研究結果から、Autoモデルで肝細胞移植が肝再生不全の主病態と考えられる細胞老化からの回復に作用する可能性、Alloモデルでは移植肝細胞の拒絶の結果、細胞老化が促進し肝内の線維化が進展する可能性が示され、ともに肝細胞移植の効果、作用機序を解明する上で重要な知見と考えられた。これらの可能性について検証、機序の解明に取り組んだことも進捗状況に遅れが生じた原因である。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、レシピエントマウスの系統をBL/6のみとし、投与肝細胞の系統をBL/6とBalb/cとする新しいAuto、Alloモデルを構築中であり、Luc/GFP-tgをドナーとして用いる実験系でも同様の見直しを行いながら計画を進めていく。これまで得られた知見であるAutoモデルでのレシピエント肝細胞の細胞老化からの回復、Alloモデルでの移植細胞拒絶後の肝線維化進展などの機序については、肝細胞移植後に起こるレシピエント肝構成細胞との接触シグナル、移植細胞の細胞死とそれに伴う炎症シグナルの変化などに着目して解析を進めていく。
|