研究課題/領域番号 |
21K07969
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
北野 雅之 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (50314571)
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研究分担者 |
橋本 真一 和歌山県立医科大学, 先端医学研究所, 教授 (00313099)
村田 晋一 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (20229991)
蘆田 玲子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (90570581)
桑原 崇通 愛知県がんセンター(研究所), がん予防研究分野, 研究員 (10816408)
原 和生 愛知県がんセンター(研究所), がん予防研究分野, 研究員 (80740258)
越川 卓 修文大学, 医療科学部, 教授 (80153526)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 膵癌 / 超音波内視鏡下穿刺吸引生検 / EUS-FNA / 人工知能 / 遺伝子解析 |
研究実績の概要 |
超音波内視鏡下吸引穿刺生検(EUS-FNA)は膵癌診断において重要な役割を担っている。EUS-FNA時における迅速細胞診(ROSE)の有用性はこれまで多数報告されているが、細胞診技師や病理医の不足のため実臨床では導入が難しいのが現状である。一方、人工知能(AI)によるROSEの可能性も報告されており、今回我々はその開発に着手した。またEUS-FNAによって採取された組織を用いた遺伝子解析は、新規治療の開発や薬剤耐性の機序解明など、多くの可能性を秘めている。本研究では、以下のEUS-FNA検体を用いた次世代診断技術を開発することを目的としている。 A. 膵腫瘍性病変のEUS-FNA検体でAIを用いた病理診断法を開発する。令和4年度は、実臨床で行ったEUS-FNA時の迅速細胞診(ROSE)で使用したプレパラートを用いてAIにおける深層学習用の細胞診画像の集積を行った。集積した約21万の画像をTraining用としてAIに学習させ、Validation用として約3万の画像を用いて検証した。さらに、Test用として120の画像を抽出し、AIおよび内視鏡医による診断能・診断に要した時間を比較したところ、AIの膵腫瘍に対する良悪性の診断能は、経験を有する内視鏡医の診断能を有意に上回っていることが判明した。 B. 膵癌のEUS-FNA検体における包括的1細胞遺伝子解析法を開発する。令和4年度は、膵癌の確定診断目的に行ったEUS-FNA検体の余剰検体を用いて、15症例16検体に対して次世代シークエンサーを用いて網羅的なRNAシークエンスを行ったところ、全ての検体でRNAシークエンスは可能であった。15症例を最初の3カ月間で化学療法が奏功した群と奏功してしなかった群に分け、得られたRNAの結果から化学療法が奏功した群に有意に多く発現しているRNAが存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A.膵腫瘍性病変に対するAIを用いた迅速細胞診(AI-ROSE)の開発 進捗状況はおおむね順調に進展しており、令和4年度は、令和3年度に引き続き実臨床で行ったEUS-FNA時の迅速細胞診(ROSE)で使用したプレパラートを用いてAIにおける深層学習用の細胞診画像の集積を行った。また、Training用として65症例より細胞診画像を集積し、全体として約21万の画像をAIに学習させ、Validationとしては15症例のプレパラートから615枚の画像を集積し, 約3万の画像を用いて検証した。その後、AIと内視鏡医の診断能を比較するために、Test用として29症例のプレパラートから120枚の画像を抽出し、21名のブラインドリーダーを抽出し、診断能および診断に要した時間を比較検討する段階まで到達した。 B.膵癌のEUS-FNA検体を用いた包括的遺伝子解析 膵癌のEUS-FNA検体における包括的1細胞遺伝子解析法の開発。包括的1細胞遺伝子解析を行う前に、次世代シークエンサーを用いて網羅的な遺伝子解析を行い、進捗状況はおおむね順調に進展している。現在、膵癌の確定診断目的にEUS-FNA行った44例が登録されている。EUS-FNA検体の余剰検体を用いて、まず15症例16検体に対してRNAシークエンスを行った。16検体すべてでRNAシークエンスは可能であった。15症例を最初の3か月間で化学療法が奏功した群と化学療法が奏功してしなかった群に分け、得られたRNAの結果から化学療法を奏功した群にいくつかのRNAが有意に多く発現していることが明らかとなった。今後は抗癌剤治療による効果や転移の有無といった様々なパラメーターの違いによる遺伝子発現の相違を解析するため、臨床データを蓄積し、それぞれの現象に関連する遺伝子の同定を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
A.膵腫瘍性病変に対するAIを用いた迅速細胞診(AI-ROSE)の開発 今後の研究の推進方策としては学習用のデータ集積を更に行い、良悪性鑑別のみならず、膵神経内分泌腫瘍や膵悪性リンパ腫などの特殊な病変のデータを集積し、膵腫瘍に対する鑑別診断能の向上を図る予定である。また更なる精度向上を目指し、彩度やピントのずれを考慮した様々な画像を学習させることを予定している。令和5年度は今までに得られたデータを学会発表および論文作成を行う予定である。 B.膵癌のEUS-FNA検体を用いた包括的遺伝子解析 令和4年度は、次世代シークエンサーを用いて網羅的なRNA遺伝子解析を実施し、解析することが可能であったため、令和5年度は解析する検体数を増やすことにより、解析データを蓄積し、臨床データと照らし合わせたうえで、抗癌剤に対する感受性や予後、または抗癌剤に対する耐性の出現など臨床上の事象に合わせた遺伝子発現の相違を解析し、検討していく予定である。その後、これら遺伝子の相違がどのような細胞由来かを検討するために、包括的1細胞遺伝子解析を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大のため学会発表などが次年度へ延期となり、出張費などが削減され次年度繰り越しとなった。 次年度に研究発表旅費、論文投稿費などに使用予定。
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