肝硬変の根治療法は現状肝移植のみであるが高侵襲、高コストかつドナー不足等の問題があるため、脂肪由来幹細胞(ADSC)を用いた肝再生すなわち再生医療への期待が高まっている。従来、ADSCの投与経路として静注、肝動注などが検討されてきたが、肝への定着率の低さが懸念されるため、我々は特殊なシート上で培養したヒトADSCを、シートごとラット硬変肝に貼付し検討した。結果、貼付8週後もADSCはシートに留まっており、線維化の著明な改善と、免疫組織化学的にTGF-β1、α-SMAの発現抑制を認めた。上記の所見は、ADSCを貼付した右葉のみならず左葉でも認めたため、ADSCが産生したサイトカインやエクソソームが血行性に拡散し効果を発揮した可能性が示唆された(2022年、Molecular Medicineに発表)。その後、貼付するシートの枚数すなわち投与するADSC数を増やして検討したが、線維化の改善はplateauであった。しかし血清AST、ALT、総蛋白、アルブミン値は用量依存性に改善の傾向を示し、免疫染色にて細胞増殖マーカーであるPCNAの陽性細胞数が増加傾向を示したことから、肝機能改善は肝細胞再生によるものであることが示唆された(2023年11月開催、第31回日本消化器関連学会週間で発表)。さらにin vitroにて、ADSCが産生する因子の同定を試みた。まずラット肝細胞をADSCと共培養することにより、四塩化炭素による細胞死が抑制されるのを確認した。次に、ウェル間を仕切るフィルターの孔径を変えて共培養を行った結果、孔径が0.6μmでも、エクソソームを通さない0.03μmでも細胞生存率に差はなかったことから、ADSCの産生する因子がエクソソームではない可能性が示唆された。
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