研究課題
本研究の目的は、C型肝炎ウイルス(HCV)をモデルとしてdoble membrane vesicles (DMV)形成に関与する宿主因子を見い出し、DMV形成のメカニズムを明らかにすることである。本研究ではNS5A膜 結合タンパクを見出し、そのHCV複製・DMV形成に関与する役割を解明することを目的とする。見出されたタンパクが新型コロナウイルスの増殖 に影響を与えるかを新型コロナウイルス細胞培養系で調べる。さらに、NS5AがDMV形成に必須なことが知られている。そこで、Huh7細胞にサブゲノミックレプリコンを導入し、NS5Aで免疫沈降反応を行なって、プロテオーム解析を行なったところ、NS5A結合タンパクとして11β-Hydroxysteroid dehydrogenase (HSD11)を見出した。さらに、脂肪滴周辺膜の比較プロテオーム解析からもHSD11を見出した。興味深いことに、HSD11のノックダウンは短期的にはHCVRNAの複製には影響を与えなかったものの、ウイルス粒子産生を抑制した。HSD11は肝臓と脂肪組織の糖質コルチコイド濃度を調整する生理作用がある。wild-type HSD11の強制発現によりHCV粒子産生の増加がみられたが、脂肪滴局在シグナル欠損HSD11ではHCV粒子産生が減少したことから、HSD11の脂肪滴局在性がHCV粒子産生に重要な役割を果たしてい可能性が示唆された。最近、トランスポゾンの逆転写酵素活性により、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)遺伝子の一部が逆転写され、宿主細胞遺伝子に組み込まれる可能性が報告された。本研究はSARS-CoV-2感染細胞を解析し、SARS-CoV-2感染細胞からRNAおよびDNAを抽出し、細胞内におけるSARS-CoV-2の存在様式について次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現解析を行なった。
2: おおむね順調に進展している
HCVのゲノムRNAが自己複製するレプリコンを持つ細胞株から、NS5A結合膜タンパクを網羅的に同定した。同定した宿主因子について、siRNAを合成し、感染細胞へ導入する。目的タンパク質の十分な発現低下を確認した後、細胞内、培養上清中のHCV-RNA量への影響をリアルタイムRT-PCR法で解析した。強くHCV粒子産生を抑制する因子として、HSD11を見出した。HSD11は肝臓と脂肪組織の糖質コルチコイド濃度を調整する生理作用がある。wild-type HSD11の強制発現によりHCV粒子産生の増加がみられたが、脂肪滴局在シグナル欠損HSD11ではHCV粒子産生が減少したことから、HSD11の脂肪滴局在性がHCV粒子産生に重要な役割を果たしてい可能性が示唆された。オレイン酸で脂肪滴合成を亢進させたHuh7細胞に、HSD11 siRNAまたは脂肪滴局在シグナル欠損HSD11導入したところ、 細胞内のLDの数、大きさが減少した。一方、野生型HSD11を発現させたところ、脂肪滴分画中のLDの数、大きさが増加した。オレイン酸で脂肪滴合成を亢進させたHuh7細胞に脂肪滴局在シグナル欠損HSD11導入し、HSD11の発現とADRPの共局在を観察したところ、 発現部位、細胞ではADRPが観察できなかった。
HSD11には酵素としての作用、脂肪滴周辺膜への結合タンパクの輸送作用が考えられた。さらにHSD13は肝臓の線維化に関与していることが報告されている。HSD11またはHSD13欠損細胞を作成し、そこに酵素活性欠損、脂肪的移行欠損等の各種delation mutantを発現させることにより、それぞれの機能がHCVの生活環にどのように関わっているか検討する。さらに、SARS-CoV-2感染患者組織からRNAおよびDNAを抽出し、細胞内におけるSARS-CoV-2の存在様式について次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現解析を行なう。
SARS-CoV-2完治後、手術を受けた患者サンプルの入手が難しく時間がかかったため、当該助成金が発生した。翌年度分として、SARS-CoV-2感染患者組織からRNAおよびDNAを抽出し、細胞内におけるSARS-CoV-2の存在様式について次世代シークエンサーを用いて遺伝子発現解析を行なう。
すべて 2021 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 図書 (2件) 備考 (1件)
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