研究課題
本研究の目的は、ケモカイン受容体に着目して「感染防御を担うTh17細胞」と「免疫寛容を担うTh17細胞」を識別する方法を確立することである。初年度は、ゲノム編集技術を用いて作製したCCR2欠損マウスとCCR6欠損マウスを交配してCCR2/6二重欠損マウス(以下、二重欠損マウス)を作出した。それぞれのケモカイン受容体欠損マウスは、普通飼育環境下の定常状態において正常に発育し、特異な臨床症状は示さなかったが、CCR6欠損による小腸パイエル板の形成不全が認められた。DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)投与により実験的大腸炎を誘導すると、野生型マウスやCCR2欠損マウスに比べ、CCR6欠損マウスは体重減少が顕著になり、腸炎スコアも重症化することが示された。ところが、興味深いことに、二重欠損マウスではDSS投与による体重減少や腸炎スコアが野生型マウスより軽減することが明らかになった。腸炎の程度に応じて短縮する結腸の長さも二重欠損マウスにおいて有意に抑制されていた。また、TNFα、IL-1β、IL-12、IFNγなどの炎症性サイトカインも二重欠損マウスで有意に抑制されていた。実験的に誘導した腸炎が、CCR6単独の欠損で重症化し、CCR2/6の二重欠損により軽症化するという反対の結果が得られた。このことは、炎症と寛容を担うそれぞれの細胞のケモカイン受容体の発現パターンが異なることを示唆するものであると考え次年度以降の研究を推進する予定である。
2: おおむね順調に進展している
CCR2欠損マウス、CCR6欠損マウスおよびCCR2/6二重欠損マウス(以下、二重欠損マウス)は普通飼育環境下の定常状態において特異な臨床症状は示さないが、CCR6の欠損により小腸パイエル板の形成不全が認められた。野生型マウス、CCR2欠損マウス、CCR6欠損マウスおよび二重欠損マウスに2%DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を投与して実験的大腸炎を誘導し、体重減少、腸炎スコアおよび結腸の短縮で病態を評価すると、野生型とCCR2欠損マウスは同程度の腸炎を発症し、CCR6欠損マウスは腸炎が増悪化し、二重欠損マウスでは軽減することが明らかになった。リアルタイムPCR法によるサイトカイン発現解析でも、二重欠損マウスにおいて炎症性サイトカインが抑制されていた。以上より、腸管おいてはCCR2+CCR6+Th17細胞が感染防御に働く炎症性のTh17細胞であり、CCR2-CCR6+Th17細胞が免疫寛容に働く抑制性のTh17細胞である可能性が示唆された。これらのことから、異なる機能を有するTh17細胞の解析はおおむね順調に進んでいると考えている。今後、腸管組織よりリンパ球を分離し、Th17細胞サブセットの詳しい表現型や局在を解析する予定である。
次年度では、フローサイトメトリーで各CCR欠損マウスの結腸の粘膜固有層に浸潤しているTh17細胞の割合を評価する予定である。また、CCR6欠損マウスで重症化したDSS誘導腸炎がCCR2/6二重欠損マウスで軽症化する現象をさらに検証するため、CCR6欠損マウスにCCR2選択的阻害剤であるプロパゲルマニウムを投与して二重欠損マウスと同じ表現型が再現されるか検討する。また、各CCR欠損マウスにみられた表現型にTh17細胞が関与しているか検討するため、Th17細胞分化のマスター遺伝子であるRORγtにGFPを導入したレポーターマウスから上述のCCR発現パターンの各Th17細胞サブセットをセルソーターにて分離し、遺伝子発現解析を行う。さらに、DSS誘導腸炎モデルに加え、感染性腸炎モデルとしてC.rodentium感染実験も進めていく予定である。
腸炎誘導モデルマウスの作製が比較的スムーズに進行し、その解析についても順調に進んでいるため、経費を節約することができた。また、gentleMACSを使用することで安定的なリンパ球の分離が可能になり、経費の節約につながった。また、当該助成金は請求した助成金と合わせ、主に消耗品および実験動物飼育管理費等として次年度に使用する予定である。
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