ミトコンドリア品質管理におけるFTMTの発現によるマイトファジーの誘導は細胞の恒常性に極めて重要な分子機構であり、既にわれわれはマイトファジーの誘導と病態との関係が明らかにしてきた(EMBO Rep 2020)。一方、慢性肝疾患ではサルコペニアの合併率が高いことが明らかにされているが、いわゆる“肝筋連関”についてはいまだ不明の点が多い。そこで肝臓で生成されインスリン抵抗性や運動抵抗性と関連するヘパトカインのセレノプロテインP(SeP)に注目し、肝臓のミトコンドリア品質管理がSePに及ぼす効果、さらにはSePを介した筋肉のミトコンドリア機能に及ぼす効果について検討した。肝発癌マウスモデルではDFP投与によりマイトファジーが誘導され、肝内と血中SeP量は有意に減少し肝脂肪化、肝発癌が抑制された。肝特異的にFTMTの発現抑制を行うとマイトファジーが抑制され、SePの減少はキャンセルされた。一方、DFP投与は骨格筋においてFTMTやオートファジーを誘導しなかった。しかし、マウスの体重に対する下腿腓腹筋重量比(下腿腓腹重量[mg]/体重[g])は肝発癌モデルに対し、DFP投与により有意に上昇し、FTMTを発現抑制すると肝発癌モデルと差を認めなかった。骨格筋に対するSePの効果を検討するためにC2C12細胞株にSePを添加したところ、ミトコンドリアの呼吸機能がSeP濃度依存性に低下した。 肝臓におけるミトコンドリア品質管理(マイトファジー誘導)は肝臓の線維化や発癌を抑制するのみでなく、SePの産生低下を介して筋肉のミトコンドリア機能を保持することが明らかとなった。以上の結果はミトコンドリア機能を介した肝筋連関の可能性を示唆する。
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