研究課題
炎症性腸疾患における慢性炎症から腸管上皮の異形成および癌化を起こす過程でキチナーゼ3様タンパク1型(CHI3L1)が深く関与していることが知られているが、その詳細なメカニズムは未だ不明のままである。近年、核内に局在する癌抑制蛋白p53をCHI3L1が抑制しているという報告もある。CHI3L1内に存在する核局在シークエンスは144~174番目のアミノ酸にあるが、この再尾部に推測上のサイクリン結合予測部位(170~174番目のアミノ酸)が存在している。我々は、CRISPR/Cas9法を使って、ヒト大腸癌細胞株SW480中の CHI3L1内170~174番目アミノ酸を欠失した 安定発現細胞株を作りKO株と命名した。さらに、このKO株に全長のヒトCHI3L1 cDNAを組み込んだpEGFP-N1ベクターを導入した安定発現株(W2D11株と命名)とベクターのみを導入した安定発現株(M3C6と命名)を作成した。MTT法にて、野生株(WT株)とW2D11株はKO株とM3C6株に比較して有意に細胞の生存率・細胞増殖率が高かった。現在ヌードマウスにこれら4種類の細胞株を接種することで、細胞増殖率をin vivoで比較中である。また、M3C6株とW2D11株をTNF刺激あり・なしで免疫沈降を行い、抗GFP (CHI3L1)抗体でip後に銀染色を行い、刺激後のみにW2D11株で多くのバンドを確認した。この共沈したバンドをMC-MS/MSにて解析したところ、刺激後のみにCHI3L1の核内移行に関わると考えられる2種類のタンパクを同定した(蛋白X, Y)。両者とも核内および細胞質に存在しうる蛋白であることがわかった。今後は、蛋白Xまたは蛋白YとCHI3L1・p53の結合に関するvalidationを行う予定である。さらに、マウス慢性腸炎モデルを用いて上記の蛋白のステージ毎での発現状況を検証する予定である。
2: おおむね順調に進展している
1)CHI3L1内170~174番目アミノ酸(推測上のサイクリン結合予測部位)が大腸癌の増殖に関与していることが確認できた。つまりCHI3L1の核局在シークエンスが発癌に関して重要な役割を担っていることが示唆される。2)CHI3L1の核内移行に関わると考えられる2種類のタンパク (蛋白X, 蛋白Y)を既に同定でできている。これらの結果からCHI3L1とパートナーとなる蛋白が結合することで両蛋白が細胞質から核内に移行し、癌抑制蛋白であるp53を抑制している可能性がクローズアップされてきた。3)ヌードマウスを用いた腫瘍接種実験およびマウス慢性腸炎モデル共に本学動物実験計画書は承認されており(プロトコール番号2022-035)、現在までの実験進行状況は順調である。このin vivoの実験において4種類のSW480を用いているが、生着率が悪く条件を改善させる余地がある。SW480の培養条件、細胞数、細胞接種の際に用いる希釈液等を変える必要があると考えている。
当初の計画通り、in vitroにおけるCHI3L1核内移行に関わるタンパク質を2つ同定した(蛋白X, 蛋白Y)。 今後は、蛋白Xまたは蛋白YとCHI3L1・p53の結合に関するvalidationを免疫蛍光染色法およびウエスタンブロッティング法を用いて行う予定である。さらに、マウス慢性腸炎モデル(AOM+DSS colitis model)やヒト早期・末期大腸癌におけるCHI3L1/p53・蛋白X/Yの発現をステージ毎に詳しく検証する予定である。また、近年、CHI3L1と結合し、EMT (上皮間葉転換)にも深く関与する分子としてCD44v3が報告されている。現在、CHI3L1内170~174番目アミノ酸を欠失した 安定発現細胞株(stable cells)は、SW480野生株に比べてCHI3L1と結合するCD44の発現がruffled membrane状に観察されることを認めており、CD44(特にCD44Ⅴ3)がCHI3L1と結合することで、CHI3L1の細胞質または核内の局在にも関与している可能性があり、これを明らかにしていきたい。
物品費として500,000円を次年度に繰り越し、実験計画に沿った研究を円滑に行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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