研究課題/領域番号 |
21K07996
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
溝口 恵美子 久留米大学, 医学部, 教授 (40782157)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 炎症性腸疾患 / CHI3L1 / p53 / 大腸癌 / 上皮異形成 |
研究実績の概要 |
炎症性腸疾患における慢性炎症時に、腸管上皮細胞が異形成から早期癌を起こす過程で、酵素活性を持たないがキチン質に結合能を有するキチナーゼ3様タンパク1型 (CHI3L1)が深く関与していることが知られている。CHI3L1には、144~174番目のアミノ酸に核内局在にかかわると推測されるシークエンスが存在し、最尾部(170~174番目)に推測上の細胞周期にかかわる蛋白であるサイクリンの結合部位が存在し、その近傍に2ヶ所のサイクリンリン依存性キナーゼ(CDK)のリン酸化部位が存在していることも確認している。我々は、CRISPR/Cas9法を使って、ヒト大腸癌細胞株であるSW480細胞のCHI3L1蛋白内の170~174番目のアミノ酸を欠失した安定発現細胞株を作成して、この細胞をknockout (KO)株と命名した。さらに、このKO細胞に全長のヒトCHI3L1 cDNAを組み込んだpEGFP N1ベクターを導入した安定発現株(W2D11株)と同一ベクターのみを導入したmock安定発現株(M3C6株)を作成した。我々は、上記3細胞株と野生株(WT株)の4種類を合計30匹のbalb/cAJcl-nuヌードマウスの後背部に接種したが、SW480細胞が生着したのは約15%のW2D11株のみであり、腹水由来のSW480細胞がこのような腫瘍の生着実験には向かないことが分かった。前年度の実験で、CHI3L1の核内移行にかかわると考えられる2種類の分子である、蛋白X, 蛋白Yを同定したが、pCDNA3.1(+)ベクター(FLAG-tag)に全長のヒト蛋白Xまたは蛋白Y cDNAを挿入して強制発現させたところ免疫染色およびIP western blot法の両方でCHI3L1/蛋白X, CHI3L1/蛋白Y の結合を確認できた。現在、Cell Signaling (Danvers, MA)のマウス抗ヒトp53モノクローナル抗体を免疫染色に使用しているが、SW480細胞およびヒト大腸癌組織の両方でp53発現が弱くしか認められず、今後は他社の抗p53抗体に変更して実験を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)CHI3L1蛋白のうち170~174番目のアミノ酸であるKQLLLは推測上のサイクリン結合予測部位であるが、この5つのアミノ酸を欠失させたSW480細胞は細胞増殖が有意に低下していた。しかし、ヌードマウスにはSW480細胞が生着しにくく、培養条件、細胞数、細胞接種方法を変えてはいるがin vivoでの機能は証明できていない状態である。 2)昨年度、CHI3L1蛋白の核内移行にかかわると考えられる2種類の蛋白(蛋白X, 蛋白 Y)を同定したが、これらの分子の全長cDNAをFLAGで標識したpCDNA3.1(+)ベクターに挿入してした強制発現ベクターを完成させた。現在のところ、免疫染色法、Western Blot法の両方でCHI3L1/蛋白X、CHI3L1/蛋白Yの結合を確認できている。 3)ヒト炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、早期大腸癌および末期大腸癌の大腸手術症例の病理組織標本をそれぞれ3~4症例ずつ集めて、CHI3L1, 蛋白X、蛋白Y、p53に対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体を使って免疫染色を行った。CHI3L1と蛋白Xはほぼ発現が一致しており、早期癌の症例で主に核周辺と核内に発現が認められた。蛋白Yはどの症例においても核内に強い発現を認めた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年同定した、CHI3L1の核内移行にかかわる2種類の蛋白(蛋白X,、蛋白Y)がCHI3L1と実際に結合していることを免疫染色法、およびWestern-blot 法(Co-immunoprecipitation method)を使って確認した。今後は、久留米大学分子生命研究所、細胞工学部門の齋藤成昭教授との共同実験のもと、蛋白Xおよび/または蛋白YをCHI3L1と同時に分裂酵母に発現させた場合、核内へ実際に移行するかどうかを確認する予定である。また、ヒト大腸手術症例の病理組織標本を久留米大学病院病理部の秋葉純教授および外科学講座の主藤朝也准教授の協力を得て(倫理委員会許可承認済み)、CHI3L1, 蛋白X、蛋白Y、p53の疾患別の組織分布を検討していく予定である。さらに、マウス慢性腸炎モデル(AOM+DSS colitis model)における大腸異形成、大腸癌の発生とCHI3L1, 蛋白X、蛋白Y、p53発現・上皮細胞内分布状況を確認していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外出張や国内の学会出張ができなかった。また、主に、ヌードマウスを用いたin vivoの系をメインに行っていたため、実験費用のコストが大幅に節約できた。 次年度は、4種類の安定細胞株や分裂酵母を使ったin vitro系、およびAOM+DSSを使った発癌モデルのin vivo系の両方を行っていくため、これらの実験に必要な経費を次年度に持ち越した。
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