高等生物ゲノムにのみ100%保存された超保存領域(ultraconserved region: UCR)はヒトゲノムに481か所存在するが、その生理機能は未だ不明である。研究代表者らは、超保存領域より転写されるRNA群 (Transcribed-UCRs: T-UCRs)の一部は、がん悪性化を引き起こす“oncogenic RNA”であることを見出している。哺乳類ゲノムのみ完全保存されたT-UCRが、大腸がん細胞の核に蓄積する理由を明らかにするため、DNA障害や細胞ストレスに応答しリバーシブルなRNA修飾であるアデノシンN6位のメチル化(Methyl-6-adenosine(m6A))によるT-UCRの動態の解明を目的とした。 2023年度は研究計画書に記載した通りに、1) 大腸がん細胞におけるm6Aメチル化RNAの網羅的解析(MeRIP-seq)及びRNAメチル化阻害剤によるRNA発現変化の網羅的解析(RNAシークエンス解析)、2) RNAメチル化酵素Mettl3の特異的阻害による大腸がんのフェノタイプへの影響、3)高メチル化ステータスを導入した細胞の樹立とがん悪性化フェノタイプの観察、を検討した。さらに、4) oncogenic RNA uc.138のメチル化配列の特定と標的として結合するメチル化RNA結合タンパク質のスクリーニング(RNA-protein pulldownアッセイ)を行い、がん細胞特異的にm6A RNAが活性化する機序の分子基盤を明らかにした。以上より、大腸がんで亢進するメチル化RNAの同定と、細胞周期依存的な細胞内RNA動態を捉えるという目的の一端が期間内に明らかにできたと考えられる。
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