研究課題/領域番号 |
21K08010
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
松本 昂 大分大学, 医学部, 助教 (50609667)
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研究分担者 |
塚本 善之 大分大学, 医学部, 助教 (00433053)
山岡 吉生 大分大学, 医学部, 教授 (00544248)
赤田 純子 大分大学, 医学部, 助教 (30346548)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ピロリ菌感染症 / 次世代シーケンス / 胃癌 / 胃オルガノイド |
研究実績の概要 |
胃マイクロバイオーム解析により、モンゴル人ピロリ菌未感染胃癌患者において、EnterococcusおよびLactobacillusの顕著な増殖が確認され、これら原因菌の増殖によるものと考えられるDysbiosisが生じている可能性が示唆された。さらに、ピロリ菌未感染胃癌の発症機序を探るため、未感染胃癌患者から分離培養し、EnterococcusおよびLactobacillusのゲノム配列を次世代シーケンスにより解読した。これら全ゲノム配列は、MiSeqおよびMinIONシーケンサーから得られた配列を用いたHybrid assembly法によって決定した。 これら細菌の発がん機構の解明に向け、感染によるAGS細胞株におけるDNA損傷を評価した。Enterococcusまたはピロリ菌感染時において、感染に伴う細胞の形態学的変化、ROS産生、さらに、細胞死が引き起こされることが明らかとなった。さらに、ゲノムの不安定性を評価するため、Comet AssayによるDNA二本鎖切断(double-strand break: DSB)、さらに、WBによりDSBの特徴であるリン酸化H2AXの検出を確認した。非常に興味深いことに、これらDSBは、Enterococcusおよびピロリ菌共感染に促進することが示唆された。 Enterococcusおよびピロリ菌によるDSBの詳細な機序を評価するため、胃オルガノイドを用いた感染モデル確立に取り組んだ。正常組織の幽門部の上皮細胞からオルガノイドを樹立し、胃オルガノイドの分化増殖に必須のWntタンパクなど複数の増殖因子が回収可能なリコンビナント発現細胞株を複数樹立した。加えて、3次元胃オルガノイドから粘膜上皮の極性を有した2次元への展開を試み、HE染色に加え、MUC5ACおよびMUC6の局在を免疫染色にて評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃マイクロバイオーム解析については、当初モンゴルに加え、ブータンおよびベトナムにおける解析を進める予定であったが、新型コロナ感染症の影響により、現在、モンゴルのみの実施となっている。今後の状況によりその他地域における解析も進めていく計画である。一方で、モンゴルにおけるピロリ菌未感染胃癌患者から、Enterococcusなどの細菌の分離培養に成功し、当初の計画通り、次世代シーケンスによる全ゲノム配列が決定できており、in vitroでも十分な、研究成果が得られている。これまでに、AGS細胞株(胃腺がん)およびMKN45(低分化型腺がん由来)、MKN28 およびMKN74細胞株(中分化型腺がん由来)の複数の細胞株を用いて、感染時のROS産生およびDNA損傷の評価系の確立および実装が行えている。加えて、共感染がDSBへ与える影響など、新たな知見も得られており、当初予定していた研究成果以上のものが得られている。一方で、細菌ごとにROS産生やDSBの条件検討などが必要であり、最終的な評価系を早期に選定する必要がある。また、当初計画通り、正常組織の幽門部の上皮細胞から3次元胃オルガノイドおよび増殖因子リコンビナント発現細胞株が樹立でき、2次元でのMUC5ACおよびMUC6の局在を確認した。
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今後の研究の推進方策 |
次世代シーケンスから決定された全ゲノム配列を用いて、Enterococcusの病原因子についてin silico検索を実施する。また、RNA-Seqにより細菌または宿主のトランスクリプトーム解析を実施する予定であり、これに向けた条件検討を行う必要がある。また、Enterococcus感染時のDSB誘導について、起因となる病原因子などの同定に向け、より詳細な細胞株を用いた感染実験が必要である。そのため、トランスウェルによる細胞外毒素または、加熱処理などにより内毒素をリガンドとしたDSBの評価を行っていく計画である。増殖因子添加後の培養日数や培地交換など、感染実験に向けた2次元胃オルガノイドの培養条件を決定する。その後、ピロリ菌さらにEnterococcusの感染成立条件やDBS確認の実験条件など、感染実験の条件検討を実施する。また、現状、マトリゲル上で培養されており、メタボローム解析に向け培養条件を検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延の影響により、納期未定の製品が多く、当初予定していた物品費を来年度以降に繰り越すこととなった。加えて、旅費についても各地域の渡航規制が緩和され次第開始するものとし、来年度以降へ繰り越すこととした。また、当初予定していたゲノム解析試薬は、令和3年度に限り、一部を別予算から購入可能であったため、来年度以降のその他研究計画の充実を図るため、当該試薬分を繰り越すこととした。
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