研究課題/領域番号 |
21K08013
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
吉治 仁志 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40336855)
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研究分担者 |
浪崎 正 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20526850)
鍛治 孝祐 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20623490)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肝線維化 / ヒアルロン酸ミセル / Gut-Liver axis |
研究実績の概要 |
今年度はヒアルロン酸ミセルを用いたドラッグデリバリーシステムの構築に向けてDPP4阻害薬における薬剤内包ミセル作成を行った。粒子径が60nmで正の表面荷電を有したミセルを作成し、DPP4阻害薬を内包して検討した結果、粒子径の変化は見られず、薬物の内包効率は約80%に達していることを確認した。ヒアルロン酸ミセルを蛍光ラベルして臓器集積性を確認したところ、被覆ミセルは単体のミセルに比べてARBミセルと同様に肝臓への集積が高いことが確認できた。さらにGut-Liver axisをターゲットとして腸内細菌と肝線維化に関する検討課題においても大きな成果を得た。肝硬変モデルラットにおける骨格筋萎縮に対するBCAAとARBの併用効果についても検討を加えた。小動物用CT装置を用いて測定した腸腰筋面積は、CDAA群で有意な減少を認めたが、BCAA、ARBを投与することで改善された。肝組織では、CDAA群で陰性コントロール群に比べ肝線維化を認め、BCAA、ARB投与群においては線維化の改善を認めた。腓腹筋組織におけるミオスタチン濃度、および筋組織における各炎症性サイトカインとAtrogin-1、MuRF1のmRNA発現は、CDAA群で上昇しており、BCAA群、ARB群、併用群で改善を認めた。 肝疾患に伴う骨格筋萎縮に対して、BCAA、ARBを投与することで、肝線維化を改善させ、ミオスタチンと炎症性サイトカインの低下、SMAD、NFκBシグナルの抑制、さらに、ミトコンドリア生合成の改善を介して、筋分解系であるユビキチン-プロテアソーム系を抑制することで、骨格筋萎縮を改善させる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
In vitro実験系においては、これまでのARBに加えてDPP4阻害薬を用いて薬剤内包ミセル作成を行った。その結果、薬物の内包効率は約80%に達する効率で複数の薬剤でヒアルロン酸被覆ミセルを作成可能である事を確認した。また、生体内において蛍光プローブを用いて検討したところ、本ミセルが肝臓に高い効率で集積することを確認した。腸内細菌制御研究においても、ARBとBCAAの併用が実験的肝線維症およびサルコペニアを腸内細菌バランス調整により抑制し得ることを確認した。肝組織では、CDAA群で陰性コントロール群に比べ肝線維化を認め、BCAA、ARB投与群においては線維化の改善を認めた。腓腹筋組織においても、筋肉短径および筋肉密度はCDAA群で低下していたが、BCAA、ARB投与群では改善傾向を認めた。興味深いことに、両剤併用群では各単剤群に比して改善効果が有意に増強された。また、腓腹筋組織におけるミオスタチン濃度、および筋組織における各炎症性サイトカインとAtrogin-1、MuRF1のmRNA発現は、CDAA群で上昇しており、BCAA群、ARB群、併用群で改善を認めた。また、SMAD2/3、NFκBシグナルについても、CDAA群と比較して、BCAA群、ARB群、併用群でそれぞれ改善を認めた。一方、TfamのmRNA発現はCDAA群で低下しており、BCAA群、ARB群、併用群でそれぞれ改善を認めた。これらの成果より当初の研究目標をほぼ達成していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究により、肝臓へ特異的に集積するヒアルロン酸ミセルを複数の薬剤を用いて作成できることを確認したので、来年度は肝線維化モデル実験系を用いて各種薬剤を内包したヒアルロン酸ミセルの肝線維化進展に対する効果を検討する。さらに作用メカニズムを明らかにするために肝線維化進展状況下における各細胞への分布について詳細に検討を加える。腸内細菌制御に関しては、基礎的検討として難吸収性抗生剤であるリファキシミンがPXRを介するtight junction安定化作用を有することから、本薬剤単独とプロバイオティクスやARBなど他の薬剤との併用効果を比較し、腸内細菌叢の変動と線維化抑制効果の関連について検討を加える。また、詳細な作用機序の検討のため内因性エンドトキシンと腸管バリア機能の関連についても解析を行う。さらに、臨床症例においても同様の検討を加えて、腸内細菌制御と内因性エンドトキシンとの関連について難吸収性抗生剤投与前後で次世代シークエンサーなどを用いて解析する。例えばRifaximin(RFX)をL-carnitine(L-CAR)に併用することで、肝硬変に伴う骨格筋萎縮への予防効果を強化し得るかについて検討する。骨格筋の評価として、小動物用CT装置(CosmoScanFX)を用いてラットの腸腰筋量を定量評価(Psoas muscle index:PMI=腸腰筋面積/体長2)し、採取した腓腹筋組織を用いて病理学的に検討を加え、詳細な抑制効果機序について解析を行う。これらの継続的研究により本研究の目的である様々なアプローチによる肝線維化抑制治療法の開発に向けた、より最終目標である臨床応用を見据えた基礎的データが得られるものと考える。
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