研究課題
今年度はヒアルロン酸ミセルを用いたドラッグデリバリーシステムの構築を用いた論文作成を行った。粒子径が60nmで正の表面荷電を有したミセルを作成し、ARBを内包して検討した結果、粒子径の変化は見られず、薬物の内包効率は約80%に達していることを確認した。ヒアルロン酸ミセルを蛍光ラベルして臓器集積性を確認したところ、被覆ミセルは単体のミセルに比べて肝臓への集積が非常に高いことが確認できた。論文作成にはオルメサルタン メドキソミル(OLM)を内包したHAコーティングミセルを調製しドラッグデリバリービークルとしての可能性を検討した。その結果、HAコーティングミセルは、in vitroでヒト肝星細胞であるLX-2細胞に特異的に細胞内取り込みを示した。また、HAコーティングミセルをマウスに静脈内注射した後、in vivoで画像解析を行ったところ、HAコーティングミセルの細胞への取り込みが確認された。臓器別では、コーティングミセルをマウスに静脈注射した後、in vivoイメージングを行ったところ、ミセルが肝臓に高い集積性を示すことがわかった。マウスの肝臓組織切片を観察したところ、HAでコーティングされたミセルが肝臓組織に分布していることが示唆された。さらに、OLMを内包したHAコートミセルをi.v.投与したところ、肝硬変モデルマウスに対して顕著な抗線維化効果を示した。HAコーティングミセルは、肝線維症におけるドラッグデリバリービークルとして有望な候補であることが明らかとなり臨床応用の可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
In vitro実験系においては、ARBであるオルメサルタンを用いて薬剤内包ミセル作成を行った。その結果、薬物の内包効率は約80%に達する効率であった。また、生体内において蛍光プローブを用いて検討したところ、本ミセルが肝臓に高い効率で集積することを確認した。PL-ミセルは、ヒアルロン酸(HA)分子のカルボキシル基とPLysのアミン基の間でPICを形成することにより、HAで確実にコーティングされたことを確認した。生体での検討として肝硬変モデルマウスに対するHA-micelle/OLMの治療効果について検討した。その結果、HA-micelle/OLMは肝硬変マウスモデルにおいて、著明な線維化抑制効果を示すことが明らかとなり、星細胞の活性化の抑制も認められた。さらに詳細なミセル分布の検討を行ったところ、HA-micelle/OLMに内包された一定量のOLMが活性化肝星細胞に取り込まれていることも明らかとなった。即ち、HAミセルを用いることによってより有効な肝線維化治療法の開発が可能となることが示された。これらの成果より当初の研究目標をほぼ達成していると考える。
今年度の研究により、ARBを用いたヒアルロン酸ミセルの有用性が明らかとなり、新たな肝線維化治療法の可能性が示された。最終年度は、プロバイオティクスなど他の薬剤との併用効果を比較し、肝線維化進展において重要な役割を果たしている事が明らかとなっている腸内細菌にも注目し、腸内細菌叢の変動と線維化抑制効果の関連について検討を加える。また、詳細な作用機序の検討のため内因性エンドトキシンと腸管バリア機能の関連についても解析を行う。肝硬変では肝線維化の改善と共にサルコペニアに対する治療も予後改善のために有用であると考えられる。そこで、ARBとプロバイオティクス野併用投与以外にもRifaximin(RFX)やL-carnitine(L-CAR)を併用することで、肝線維化進展に加えて肝硬変に伴う骨格筋萎縮への予防効果を強化し得るかについて検討する。骨格筋の評価としては、小動物用CT装置(CosmoScanFX)を用いてラットの腸腰筋量を定量評価(Psoas muscle index:PMI=腸腰筋面積/体長2)し、採取した腓腹筋組織を用いて病理学的に検討を加え、詳細な抑制効果機序について解析を行う。これらの継続的研究により本研究の目的である様々なアプローチによる肝線維化抑制治療法の開発に向けた、より最終目標である臨床応用を見据えた基礎的データが得られるものと考える。
当初計画案よりも消耗品費用が少額で目的が達成できた。次年度はこれらの助成金を用いて最終年度に十分な検討を行う。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
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