研究課題
我々はこれまで,Reg ファミリー蛋白が消化管粘膜の再生を促進させることを報告し,炎症性消化管疾患で強発現して病態形成に役割を果たすことを明らかにした.さらには,Reg ファミリー蛋白発現が消化管組織において IL-22 シグナルにより増強し,腸管の自然免疫にも役割を果たす可能性を示唆した.そこで本年度は,腸内細菌叢の攪乱 (dysbiosis) と消化管微小炎症における Reg ファミリー蛋白の役割を解明するため,まず,高脂肪食負荷マウス,抗菌薬投与マウスなどの dysbiosis モデルを作成した.高脂肪食負荷マウスの小腸では Lactobacillus 属の菌が著しく増加し,逆に Clostridium 属の菌が著しく減少することを見出した.さらには,小腸粘膜上皮における Reg IIIb と Reg IIIr の発現が減弱し,粘膜バリア機能に重要なタイト結合蛋白のうち occludin の発現が同様に減弱し,実際,粘膜の透過性に亢進が認められた.近年,Reg ファミリー蛋白には抗菌ペプチドとしての作用がある可能性が示唆されており,その発現低下が粘膜バリア機能の低下に寄与した可能性が考えられた.興味深いことに,小腸組織では炎症性サイトカイン IFN-r と IL-6 の発現が増強し,分子レベルでは炎症が促進していること,さらには,小腸のみならず肝組織にも細菌構成蛋白で催炎症性作用を有する LPS が増加している知見を得た.これらの事から,食事起因性のdysbiosis によって抗菌ペプチドなど粘膜バリア機能に関与するシステムに障害が生じ,消化管組織に微小炎症が生じて最終的には多臓器にも微小炎症が波及する可能性が示された.次のステップとして我々は,Reg 蛋白が免疫担当細胞の分化とサイトカイン産生能に及ぼす効果を検討する予定としている.
2: おおむね順調に進展している
高脂肪食負荷の dysbiosis モデルにおいて 抗菌ペプチド候補である Reg ファミリー蛋白の発現低下が粘膜バリア機能の低下に関与し,消化管組織のみならず肝組織にも微小炎症を惹起されることを明らかにした.次の段階として,Reg ファミリー蛋白の粘膜免疫担当細胞に対する直接的な作用を in vitro 実験で検証していく計画を進めており,本研究は概ね当初の計画通りに進展していると考えられる.
Reg ファミリー蛋白の粘膜免疫担当細胞に対する直接的作用を明らかにするため,リコンビナント Reg ファミリー蛋白を用いて免疫担当細胞を刺激する実験系を構築する.その上で,Reg ファミリー蛋白が免疫担当細胞の分化やサイトカイン産生能に及ぼす効果の解明を進める予定である.
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 7件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (2件)
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