研究課題/領域番号 |
21K08019
|
研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
筆宝 義隆 千葉県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 研究所長 (30359632)
|
研究分担者 |
丸 喜明 千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ 発がん制御研究部, 研究員 (30742754)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 胃がん / オルガノイド / 発がん / マウス / 遺伝子変異 |
研究実績の概要 |
これまでにマウス正常オルガノイドへの遺伝子導入と免疫不全マウス皮下への移植を組み合わせた、「オルガノイド発がんモデル」を複数の臓器に対して構築してきた。その過程で、当該臓器での主要遺伝子異常であっても単独で腫瘍形成に至るのは稀であり複数の異常の組み合わせが必要なこと、初代培養開始後2-3ヶ月程度で過去のin vivoモデルと概ね同等の結果が再現可能だが、一部で結果に乖離がみられ微小環境の重要性が示唆される場合があること、などを明らかにしてきた。マウス腺胃由来オルガノイドに関しても、高頻度な主要がん関連遺伝子異常を組み合わせて再現を行い、多様な組織像の腫瘍の誘導が基本的に可能であることを確認した。ただし、当初の想定よりも同一の遺伝子異常に対して得られる腫瘍の多様性および腫瘍内不均一性が高いことが判明したため、実験の件数を増やして傾向の把握に努めた。また、実験の各ステップのオルガノイドを採取することで発がん過程の詳細な解析が可能である利点を生かし、活性型Kras変異が単独では培養中に排除されることを明らかにした。これは膵管細胞とは同様の反応だが、腸管細胞とは逆の反応である。一方、p53欠失と組み合わせることで強い正の選択を受けるのはいずれの臓器でも同様であった。オルガノイド培養の実験条件が各臓器で全く同一であることを踏まえると、これらの結果は臓器ごとのエピジェネティックな状態によりKras変異単独での発がんにおける意義が異なることを示唆するものと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃がんの主要遺伝子異常の組み合わせに対しては、オルガノイドを用いた発がん性の基礎的検討を完了した。他の臓器でのモデルにおける結果と同様に、免疫不全マウス皮下におけるオルガノイドと間質との相互作用が惹起するエピジェネティックな変化、およびその後のクローン選択が腫瘍形成に重要な役割を果たしていることを確認した。特に、皮下腫瘍由来のオルガノイドを再移植した場合、元々の遺伝子異常の組み合わせに関わらずその腫瘍原性が飽和してしまい区別がつかなくなることを見出した。そのため、通常のアッセイでは3遺伝子変異までの組み合わせに関する発がん性評価に限定してのみ利用可能であると結論づけた。化学物質と遺伝子異常による発がんの協調作用については、発がん性物質で単独では腫瘍形成を認めなかったことから、betaカテニンの蓄積にも関わらず嚢胞(100%)の誘導に留まるなど低い腫瘍原性を示すApcとp53の二重欠失(A5)オルガノイドを用いて遺伝毒性物質2種類を投与するアッセイを行った。その結果、1種類において充実性の腺がんが誘導され、一般的にin vivoでは発がん性が低いとされるマウス胃がんの化学発がんの簡便かつ迅速な実験系の確立につながる成果と考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
低い腫瘍原性を示すA5オルガノイドを用いることで化学発がんによる腫瘍形成が誘導された。当該腫瘍由来オルガノイドのゲノム解析を行うことで、Apcとp53の二重欠失と協調的に作用して発がんを誘導した遺伝子異常の同定を試みる。また、同様にA5オルガノイドにゲノムワイドshRNAライブラリーを導入してスクリーニングを行うことで、新規の胃がん抑制遺伝子の同定を目指す。p53欠失とCdh1発現抑制組み合わせ(C5)により腺癌が誘導された(100%)。CDH1変異陽性びまん型胃がんの特徴である印環細胞を一部の腫瘍に認めるなど、遺伝子改変マウスの結果を一部再現したが、基本的に腺管優位の腸型であり、びまん型の誘導には胃微小環境が重要であり、皮下組織では完全に代償できない可能性が示唆された。そこで、びまん型で高発現のIHHをC5オルガノイドに導入することでびまん性増殖がどこまで再現可能になるか検証する。さらに、これまでに得られた腫瘍由来オルガノイドに対する薬剤スクリーニングを行い、変異に特異的な新規治療薬の探索を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初購入を予定していた試薬を注文したが、国内在庫がなく輸入対応になるなど欠品しておりキャンセルとなったため、5年度に新ためて発注することとなったため。
|