ヒト胃がんで高頻度な主要がん関連遺伝子異常をマウス腺胃由来オルガノイドに組み合わせて再現し、多様な組織像の腫瘍の誘導が基本的に可能であることを確認した。当初の想定よりも同一の遺伝子異常に対して得られる腫瘍の多様性および腫瘍内不均一性が高いこと、活性型Kras変異が単独では培養中に排除されることを明らかにした。他の臓器でのモデルにおける結果と同様に、免疫不全マウス皮下におけるオルガノイドと間質との相互作用が惹起するエピジェネティックな変化、およびその後のクローン選択が腫瘍形成に重要な役割を果たしていることを確認した。化学物質と遺伝子異常による発がんの協調作用については、発がん性物質で単独では腫瘍形成を認めなかったことから、betaカテニンの蓄積にも関わらず嚢胞(100%)の誘導に留まるなど低い腫瘍原性を示すApcとp53の二重欠失(A5)オルガノイドを用いて遺伝毒性物質2種類を投与するアッセイを行った。その結果、1種類において充実性の腺がんが誘導され、一般的にin vivoでは発がん性が低いとされるマウス胃がんの化学発がんの簡便かつ迅速な実験系の確立につながる成果と考えられた。p53欠失とCdh1発現抑制組み合わせ(C5)により腺癌が誘導された(100%)。CDH1変異陽性びまん型胃がんの特徴である印環細胞を一部の腫瘍に認めるなど、遺伝子改変マウスの結果を一部再現したが、基本的に腺管優位の腸型であり、びまん型の誘導には胃微小環境が重要であり、皮下組織では完全に代償できない可能性が示唆された。そこで、びまん型で高発現のIHHをC5オルガノイドに導入することでびまん性増殖がどこまで再現可能になるか検討を行い現在解析中である。
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