ウイルス性心筋炎による心筋傷害および心機能障害がCOVID-19パンデミックにより改めて注目されている。ウイルス性心筋炎のマウスモデルにおいては、心筋傷害の程度に依存して心筋APE1発現量の増加することが先行研究で明らかにされたことから、心筋傷害のバイオマーカーとしてのAPE1の診断的意義が想定された。同じく先行研究においてサイトカインストーム状態におけるAPE1の組織障害修飾作用が検出されたことから、APE1を介する炎症~リモデリング促進機序の制御がウイルス性心筋炎における本質的な治療標的となる可能性も示唆された。ウイルス性心筋炎におけるDNA二本鎖切断によるアポトーシスの誘導やROS産生による酸化ストレスの亢進は心筋傷害の主要な機序であり、APE1作用機序と多くの共通性が存在することから、ウイルス性心筋炎においてAPE1が心筋傷害の発生・重症化を早期に検出し得る新たなバイオマーカーとなり得る診断的意義とAPE1がウイルス性心筋傷害の心筋組織修復および心機能回復を促進するための新たな治療標的分子となり得る治療的意義の両側面から検討を進めた。Coxsackievirus B3 (CVB3)のH3系(CVB3-H3)を標的として、BALB/cマウスへのCVB3-H3の多段階用量適用下では、APE1 (ELISA)の経時的増加が認められ、心筋トロポニンT/I、BNP等の経時的変動との比較から特異的バイオマーカーとしての意義が示唆された。またAPE1の心筋導入により特に虚血領域でのアポトーシス抑制を介する心筋組織障害の軽減と心リモデリング抑制効果が示唆され、新たな治療標的分子となる可能性が示唆された。本研究結果を前提として、広くウイルス性心筋炎による心筋傷害および心機能障害における新たな診断・治療標的分子としてのAPE1の意義を確立するための研究を進める予定である。
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