研究課題
マルファン症候群(MFS)はFBN1の遺伝子異常により全身の結合組織の構造・機能破綻を来す常染色体優性の希少難治性疾患である。とくに組織脆弱性に起因する大動脈瘤、大動脈解離が患者の予後やQOLに関わり重要である。これまでの検討から、FBN1の遺伝子異常によって組織脆弱性に起因するメカニカルストレスが増大し、アンジオテンシンII受容体の活性化によりって大動脈組織で酸化ストレスを産生するxanthine oxidaseの発現が血管内皮で亢進することを明らかにした。Fbn1C1039G/+マウスでは大動脈瘤形成とともに大動脈外膜にマクロファージが浸潤し、マクロファージにおけるxanthine oxidaseの発現が増加していた。マクロファージにおけるxanthine oxidaseの役割を明らかにするために、LysM-Creマウスを用いてマクロファージ特異的xanthine oxidaseノックアウトマウスを作成し、これらのマウスとFbn1C1039G/+マウスを交配したところ、大動脈組織での酸化ストレス、Smad2やERKsのリン酸化、MMP活性、さらに大動脈中膜の組織像の変化や大動脈瘤形成が抑制された。それにともなって、血管内皮におけるxanthine oxidaseの発現増加も抑制されていた。以上より、MFSの大動脈組織では、血管内皮におけるxanthine oxidaseの発現増加がトリガーとなり炎症細胞浸潤や瘤形成が促進されるが、マクロファージにおけるxanthine oxidaseも瘤形成の促進因子として重要であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
MFSの大動脈瘤形成におけるマクロファージにおけるxanthine oxidaseの病因的役割については解析がほぼ終了した。本研究課題はおおむね順調に進展していると言える。
血管内皮におけるxanthine oxidase活性亢進による酸化ストレス増大が、大動脈中膜・外膜における組織破壊や炎症へと繋がる複雑な機能的細胞応答について解析を行い、MFSの分子病態の全容解明とその制御による新たな治療法の確立を目指す。血管の3次元培養系を用いて、血管内皮xanthine oxidase由来の酸化ストレスが、大動脈中膜におけるMMP活性化や弾性線維の断裂を誘導しうるかを検証するとともに、Fbn1 C1039G/+マウスの胸部大動脈組織を採取し、シングルセルRNA-seq解析を行い、血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、炎症細胞(マクロファージやリンパ球、好中球)といった細胞集団が、各病態モデルにおいて大動脈瘤形成の過程で遺伝子発現や細胞機能をどのように変容させるのかを検討する。
当該年度末にマウスを購入し実験を行う予定であったが、納期の関係から計画を変更し、次年度に行うこととしたために、未使用額が生じた。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)
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