研究課題/領域番号 |
21K08029
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石田 万里 広島大学, 医系科学研究科(医), 准教授 (30359898)
|
研究分担者 |
石田 隆史 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (40346482)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | DNA損傷 / ミトコンドリア / 細胞質DNA / 炎症 |
研究実績の概要 |
動脈硬化の本態は慢性炎症である。ミトコンドリアは自身の遺伝子を持っているが、ミトコンドリア内のタンパクのほとんどは核のDNAによってコードされている。一方、染色体の安定性には健全なミトコンドリア機能が不可欠である。本研究では、このような核とミトコンドリアの緊密な相互作用(mito-nuclear crosstalk)が刻々と変化する細胞環境への対応に重要な役割を果たしていることを明らかにする。我々は動脈硬化の発症に核のDNA損傷が深く関わっていることを明らかにしてきた。昨年度と今年度は、血管内皮細胞において、核DNAの二本鎖切断の生成にミトコンドリアの障害が強く関わっていることを明らかにした。タバコ煙等、ミトコンドリアの機能障害を生じさせる刺激は、Bak/Bax、caspase-3を介するminority mitochondria outer membrane permeabilizationを惹起し、caspase-activated DNase(CAD)のinhibitorであるICADの細胞質タンパク量を減少させ、核内のCADを増加させた。これにより、核DNAの二本鎖切断が生じることが明らかとなった。また、ミトコンドリアDNAはBAK/BAXによって生じたミトコンドリア膜のporeから、核DNAの断片は核膜を通して、それぞれ、細胞質に移動、蓄積することを見いだした。細胞質のミトコンドリアおよび核DNA断片はcGAS-STING、TBK1のリン酸化、NFkBの活性化を介してIL-6を増加させた。 以上の研究から、動脈硬化の危険因子の一部は、核DNAへの直接損傷だけでなく、ミトコンドリア障害を介した一連のシグナルによって更なる核DNA損傷を惹起する、というmito-nuclear crosstalkが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究において、内皮細胞におけるDNA損傷についてmito-nuclear crosstalkを示すことができた。次年度はmito-nuclear crosstalkによって生じた細胞質DNAのうち、ミトコンドリアDNAが特に重要であることを示していきたい。また、核のDNA損傷の蓄積するマウスにおいて、ミトコンドリア障害、細胞質ミトコンドリアDNA蓄積がどう変化しているかを確認したい。
|
今後の研究の推進方策 |
Ku80+/-マウスおよび野生型マウスから分離培養した内皮細胞(EC)および血管平滑筋(VSMC)を用いて、細胞質DNAの起源の同定、ミトコンドリアDNA損傷および核DNA損傷の定量、炎症に至るシグナル伝達にKu80+/-マウスおよび野生型マウスの間で差があるか、を検討する。また、細胞質内において一本鎖および二本鎖DNAを分解するthree-prime repair exonuclease 1 (TREX1) cDNAをレトロウィルスベクターに挿入し、合成レトロウィルスをKu80+/- 細胞に感染させ,IL-6,MCP-1などの炎症性サイトカイン発現増加が抑制されるかを検討する。 細胞質DNAのうち、ミトコンドリアDNAの重要性を明らかにするため、EtBrを用いて細胞内のミトコンドリアを枯渇させ、 細胞質DNAセンサーの活性化および引き続くシグナル伝達の活性化について検討する。 GFPラベルしたTREX1をアデノ随伴ウイルスベクターに挿入し、Ku80+/-とApoEノックアウトマウスの二重改変マウスの尾静脈より静注し、動脈硬化の進展について対照群と比較する。大動脈Oil Red O染色、血管組織の炎症性サイトカイン発現、分離培養したECおよびVSMCのミトコンドリアDNA損傷、細胞質DNA、細胞質DNAセンサーおよび引き続くシグナル伝達の活性化について検討し、細胞質DNAの蓄積およびmito-nuclear crosstalkの動脈硬化進展における重要性について明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
適切に執行した結果少額使用額が残ったが、次年度に遺伝子導入実験に使用する予定である。
|