2021年度の実績として、高血圧性心不全モデルであるDahl食塩感受性ラットを用いて、腎神経求心路を選択的に除神経するafferent renal denervation(ARDN)により、心不全の進行(肺重量の増加、左室収縮能の低下)が抑制されることを示した。 2022年度には、心臓リモデリングの生化学および組織学的な評価、ならびに交感神経活動指標の評価を行った。心不全モデルにおいて、左室の線維化マーカーの増加と、組織学的な左室線維化が確認でき、ARDNによりこれらの抑制がみられた。全身の交感神経活動の指標である血漿ノルエピネフリンは、心不全モデルで上昇し、ARDNにより抑制された。交感神経出力を反映する延髄の頭側延髄腹外側野の神経興奮も、心不全モデルで増加し、ARDNにより抑制された。さらに、交感神経出力増加の機序として、脳内レニン・アンジオテンシン系(RAS)の寄与を検証したが、脳内RASのパラメーターはARDNにより有意な変化を示さなかった。 2023年度には、心不全モデルにおける交感神経出力増加の機序として、視床下部室傍核におけるバソプレシン産生亢進が関与していることを示した。同部位からのバソプレシン産生は、同じく視床下部室傍核に存在する前交感神経ニューロンをパラクライン作用として興奮させる。同ニューロンは延髄に投射し、頭側延髄腹外側野の神経興奮を来す。これは、視床下部で産生されたバソプレシンが神経の中を通って(軸索輸送)、下垂体後葉から血中に分泌され血管や腎臓に作用する機序とは別のものである。 これらの研究成果により、腎神経求心路が視床下部室傍核のバソプレシン産生亢進を介して交感神経出力を増加させ、高血圧性心不全の病態進展に寄与することが示唆された。
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