本研究では、ネクロプトーシスシグナルの最下流で機能するMLKL(mixed lineage kinase domain-like)の心筋細胞内動態と心不全における意義を解析した。 拡張型心筋症(DCM)臨床例と同様にδサルコグリカン(DSG)欠損マウスではリン酸化MLKLの増加が、細胞質のほかにも核、介在板に認められ、細胞質と介在板におけるMLKLリン酸化が細胞死へ寄与する一方、核のMLKLは細胞死以外の機序を含めて左室収縮機能障害に関与している可能性が示された。 細胞核へのリン酸化MLKL移行は、RIP1活性依存性にRan/importin 経路を介して誘導され、従来知られているリン酸化MLKLオリゴマーによる細胞膜障害とは異なる機序で細胞死を促進することが明らかとなった。介在板のリン酸化MLKLは、DCM臨床例と同様にDSG欠損マウスでそのレベル亢進が認められ、介在板構造の障害への関与が示唆された。ドキソルビシンで誘発の亜急性心不全モデルではリン酸化MLKLの介在板移行が見られなかったが、MLKLが直接的に左室収縮障害に関与することがMLKL発現の抑制により明らかにされた。ラットとは異なり、マウスの心筋細胞ではRIP1蛋白の発現は極めて低く、MLKLリン酸化はRIP1非依存性のRIP3活性化によって誘導されるという特徴が見いだされた。 以上の結果から、心筋細胞においてネクロプロートシスシグナルの起動は、従来知られていた細胞膜上のMLKLオリゴマーを介した細胞死のほかに、核に蓄積したリン酸化MLKLを介したRIP1/RIP3非依存性の機序による細胞死の増悪をもたらし、さらに細胞死を介さない収縮機能障害をも誘導すると考えられる。また、慢性心不全の慢性的ストレス下では、リン酸化MLKLの介在板移行が加わり、伝導障害や収縮機能障害の増悪を惹起する可能性が示唆された。
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