これまでに報告者は血糖値+中性脂肪値のスパイクがHSPCの転写制御の変化を誘導し造血幹細胞の老化を促進することを確認した。幹細胞の運命決定にヒストンの修飾は重要な役割を果たし、一方で代謝の変化がヒストン修飾酵素に影響することが知られている。 造血幹細胞において血糖値+中性脂肪値のスパイクは代謝中間産物のミトコンドリアへの流入を促進するという結果を得たことから、血糖値+中性脂肪値のスパイクはアセチル CoAやTCAサイクルの中間代謝産物を増加させることが示唆され、これらに伴いヒストンアセチル化酵素やJumonjiファミリーに属するヒストン脱メチル化酵素(JMJD)の活性化を誘導すると考えられる。アセチル化ヒス トンの半減期は非常に短く(大半が15分以内)、メチル化ヒストンの半減期は日単位である ことが知られており、血糖値+中性脂肪値のスパイクによる造血幹細胞の老化誘導のタイムコース(3日目では有意な表現型を示さない)からJMJDに着目して検討を行った。 造血幹細胞におけるJMJDの発現について検討したところ、血糖値+中性脂肪値のスパイクはKdm6bの発現を特異的に増加させることがわかった。KDM6BはヒストンH3の27番目のリジン(H3K27me2/3)を脱メチル化する酵素で、H3K27me3は遺伝子発現に対して抑制的に作用し、造血幹細胞の運命決定遺伝子はH3K27me3修飾を受けていることから、KDM6Bに着目し検討を進めた。その結果、血糖値+中性脂肪値のスパイクによって誘導される「老化した造血幹細胞の表現型」の出現がKDM6阻害剤の投与によって抑制できることがわかった。
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