当院において、非ホジキンリンパ腫と診断され、化学療法開始前に心エコーが予定された患者の情報を収集するため、レジストリ構築にかかる準備を進めた。非ホジキンリンパ腫の標準的な初期治療は、現在でもアドリアマイシンを用いたCHOP 療法であるが、近年は治療効果が高く、心筋障害発現リスクの低い新たな分子標的薬(例:イブルチニブなどのEZH2 阻害剤)やCAR-T 療法など免疫細胞療法が登場し、わが国においても初期治療抵抗例に対する二次治療として保険適用となった。これら最近のリンパ腫に対する治療戦略の劇的な変化で、アドリアマイシン累積使用量は著しく減少するようになり、臨床現場で アドリアマイシン心筋症が問題となりうる場面は急激に減少している。このような状況から、当初計画にもとづいたレジストリ構築や患者データ解析などの臨床的意義は当初の段階にくらべて著しく低下するようになり、当初計画を遂行することは困難な状況であると判断した。 なお、先行研究として我々が薬剤性心筋障害モデルを用いて行った基礎的研究の知見から、慢性炎症を制御することで心筋障害を軽減するという心不全の新たな治療の可能性が示唆されている。我々はこれらの研究データの解析を進め、免疫調節細胞であるナチュラルキラーT 細胞を活性化する糖脂質α-ガラクトシルセラミドの薬剤性心筋障害に対する抑制効果に関する用途特許を今回申請・取得した。これらの我々の一連の研究成果は、今後、心不全に対する新たな治療薬の開発につながる可能性があり、学術的にも社会的にも大きな意義があると考える。
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