研究課題
(基礎研究)ダール食塩感受性ラットの拡張期心不全モデルをもちいて、拡張期心不全の左室代償性肥大期および心不全期における左室でのRANK/RANKL/OPGの発現について検討している。左室心筋中のオステオプロテジェリン(OPG)のmRNAおよび蛋白発現量はモデルにおいて、代償性肥大期および心不全期のいずれもControl群と比較して増加し、心不全期においてより増加していた。また、蛋白量は代償性肥大期にはControl群と同等であったが、心不全期に増加していた。RANKLやRANKについては仮説とは無関係な変動をしめしていた。左室心筋におけるOPGの増加は左室間質の線維化や左室心筋におけるType1 collagen mRNAの増加とパラレルな動きを示しOPGが左室間質の線維化を通して拡張期心不全の病態にかかわるとする仮説と矛盾しない結果であった。(大規模コホート研究)Atherosclerosis Risk in Communities Study(ARIC Study)はアメリカの4つの地区における主に白人および黒人を参加者としたコホート研究である。この研究においてはVisit 3およびVisit5でプロテオミクス解析が行われている。プロテオミクスの目的とする蛋白にOPGが含まれており、同蛋白の血漿中濃度と心不全の発症について検討した。結果としては、OPGは心不全の発症と強く関連していた。同研究内容について、AHA Scientific Session 2021でModerated Poster Sessionの演題として採択され発表した。
2: おおむね順調に進展している
(基礎研究)現段階において、拡張期心不全モデルの左室心筋において、OPGのmRNAや蛋白発現量はControl群と比較して増加しており、それらは仮説として考えていたRANK/RANKL/OPGシステムの一部としての動向とは独立して動作している可能性が示唆されている。また、OPGの動向は左室間質の線維化や心筋におけるType1 collagenの増加と関連しており、このことにより左室スティフネスの増加を誘導して拡張期心不全の病態と関連している可能性が考えられる。現段階では、病態とOPGの発現の関連性までは示されているが、直接の因果関係については証明できていない。(大規模コホート研究)上記のように、ARIC Studyを用いてプロテオミクスデータにおける血漿中 OPG濃度が心不全の発症と強く関連していたデータを得られている。その後、Visit 5においてOPG濃度と心臓超音波検査の各種項目との関連性について検討した。結果、血漿中OPG濃度は交絡因子で補正したあとも左室心筋重量係数や相対的壁厚、僧帽弁流入血流速波形や組織ドップラーを用いた左室拡張機能指標、左房容積などと有意に関連していることを確認している。さらには、Visit 5以降においては異なる心不全表現型の発症それぞれについて検討した。結果、血漿中OPG濃度は収縮機能が低下した心不全と維持された心不全(拡張期心不全)いずれにも同等に関連している結果を得られた。
(基礎研究)上記のように現段階ではOPGと拡張期心不全の病態を直接の因果関係について証明できていない状況である。今後In vitroの実験系においてOPGが心臓線維芽細胞において直接コラーゲン産生を促すかどうか、さらに、どのような細胞内シグナル伝達系を介して影響を及ぼすかについて検討する予定である。(大規模コホート研究)上記のように、血漿中OPG濃度は収縮機能が低下あるいは維持されている心不全の両者の発症に同等に関連している可能性が考えられた。今後は、そのメカニズムを解明するための研究が必要であると考えている。現在同内容については論文化しており、まもなく投稿できると考えている。上記の基礎研究や大規模コホート研究の結果、さらには過去の研究代表者の研究内容から、OPGを含む骨代謝と関連する系が心臓組織内において、心不全の病態に関与すると考えている。このため、さらに、複数の大規模コホートデータを集積したBio-Linkのデータを用いてOPGを含めた骨代謝関連因子と心不全との関連性について研究を進めていく予定である。
アメリカ心臓協会に出張して共同研究者と同研究内容について討議する予定であったが、新型コロナ感染症の広がりのため出張することが不可能となりました。同費用については次年度の基礎研究費あるいは旅費として使用したいと考えています。
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