研究課題/領域番号 |
21K08069
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
長谷川 浩二 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 展開医療研究部, 研究部長 (50283594)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心筋細胞 / 情報伝達 / 薬物療法 / 転写調節因子 / 心不全 |
研究実績の概要 |
21世紀の高齢化社会の到来とともに、これからますます増加する高血圧性心疾患および虚血性心疾患による心不全に対し、その発症を抑制すると同時に、心不全に対する新たな治療法を確立することは、社会的・医療経済的急務である。申請者はこの20年間、心不全の根本的治療法開発のため心筋細胞肥大における核内情報伝達機構の解明を精力的に行ってきた。そして、ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性を持つ転写調節因子p300がGATA4因子をアセチル化し(Mol Cell Biol 2003)、心筋梗塞後のリモデリング増悪させることを明らかにした (Circulation 2006)。さらに、天然物ウコンの主成分でp300のHAT活性を特異的に抑制するクルクミンが、心筋GATA4のアセチル化を抑制することにより心不全の増悪を抑制することを、高血圧心疾患及び梗塞後心不全の2つの動物モデルで確認した(J Clin Invest 2008)。こうして心筋細胞核の過剰なアセチル化が病的心筋細胞肥大から心不全発症に重要であることが国際的に認識されてきた(Circ J 2010)。心筋核内においてp300/GATA4は巨大なコンプレックスを形成していると推測されるが、このコンプレックスは心不全シグナルによって、時間的、空間的に変化し、さまざまなクロマチン修飾因子がリクルートされることにより転写の活性・不活化を制御していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒストンアセチル化酵素活性を有するp300 はヒストンのテールドメイン(H3K9)だけでなく球状ドメイン(H3K122)もアセチル化する。高血圧性心疾患の肥大から収縮不全への進展において、ヒストンのアセチル化修飾部位の変化を検討した。高血圧性心不全モデルのダールラット肥大反応因子プロモーターにおいて、ヒストンのテールドメイン(H3K9)のアセチル化は肥大期に、球状ドメイン(H3K122)のアセチル化は収縮不全期に有意に増加した。さらに免疫沈降-WB の結果、収縮不全期にクロマチンリモデリング因子のBRG1とp300との結合が有意に増加した。ヒストンのアセチル化修飾部位の違いに着目し、高血圧性心疾患の進展におけるエピジェネティックな転写制御機構について検討し、肥大期から収縮不全期にp300/BRG1 の複合体形成により球状ドメイン(H3K122)のアセチル化が増加することが示唆された。さらにBRG1阻害剤の高血圧性心不全動物モデルでの検討を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
高血圧による圧負荷、心筋梗塞による細胞死などのストレスが心臓に加わると、そのシグナルは様々な神経・体液性因子に変換される。これらが心不全の発症ならびに増悪に関与しており、β-交感神経遮断薬やアンジオテンシン拮抗薬が心不全の治療の基本として確立されたが、その後の薬物療法には著明な進展が見られてない。無数の細胞外液性因子を標的とするよりも、細胞内情報伝達の最終共通経路を標的とした、より根本的な心不全発症・増悪抑制の薬物療法の確立が、21世紀の高齢化社会において是非必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定通り計画は進捗し、経費執行も予定通りであるが、272円と少額であるが、端数が出た。
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