研究課題
超高齢化社会の到来と共にますます増加する収縮能の保たれた心不全(HFpEF)に対し、その発症を抑制する新たな治療法を確立することは、社会的・医療経済的急務である。申請者はこの20年間、心筋細胞核内情報伝達機構の解明から臨床現場への展開医療研究を精力的に行ってきた。そして、ヒストンアセチル化酵素(HAT)活性を持つp300が転写調節因子GATA4をアセチル化し、心筋梗塞後心不全増悪させることを明らかにした(Circulation 2006)。さらに、天然物ウコンの主成分でp300のHAT活性を特異的に抑制するクルクミンが、心筋GATA4のアセチル化を抑制することにより高血圧性及び梗塞後心不全の増悪を抑制することを見出した(J Clin Invest 2008)。こうして心筋細胞核の過剰なアセチル化が病的心筋細胞肥大から心不全発症に重要であることが国際的に認識されてきた。さらに、梗塞後心不全においてクルクミンと心不全の標準治療薬であるACE阻害薬は相加的に心機能を改善すること、クルクミンは高血圧から高血圧性心肥大(左室拡張不全)の発症も抑制すること(Nutrients. 2021)を見出した。これにより心筋細胞核内情報伝達を標的とした薬物療法がヒトにおいてHFpEFにも有用である可能性を示した。そこでプラセボを対照として、天然より抽出したクルクミンを90%含み、Drug-delivery system を用いて高吸収化したクルクミン180mg/日を、高血圧性心疾患患者に24週間内服して頂く二重盲検無作為化比較臨床試験を施行した。副作用などは認められず、プラセボに比較して高吸収クルクミンで血中BNP濃度上昇が有意に抑制されることを示した(Eur Heart J Open 2022)。さらに天然成分である[6]-ショーガオールやアンセリンが心不全発症増悪を抑制することも見出した。
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