肺動脈性肺高血圧症 (Pulmonary arterial hypertension; PAH) は、遠位の肺動脈に原因不明の狭窄・閉塞病変を生じ、肺動脈圧の上昇から心不全に至る予後不良の疾患であり、新たな作用機序の治療法の開発が望まれている。本研究の目的は、免疫細胞がPAHの病態形成に果たす役割、特に炎症性サイトカインのIL-6の受容体であるgp130を介したシグナルの意義について、CD4陽性T細胞に注目して明らかにすることである。 はじめに、低酸素誘発性肺高血圧症(HPH)モデルを作成し、CD4陽性T細胞 におけるgp130欠損により、肺高血圧症病態が改善することを明らかにした。 次にHPHモデルのCD4陽性T細胞におけるgp130欠損が、IL-6の下流のシグナルに位置するリン酸化STAT3発現に及ぼす影響を評価した。低酸素負荷後に肺におけるCD4陽性T細胞のリン酸化STAT3発現は増加したが、gp130欠損によりその増加は抑制された。また、低酸素負荷によるTh17細胞とIL-21産生T細胞の増加が、CD4陽性T細胞におけるgp130欠損によって有意に抑制されることも明らかにした。 さらに、HPHモデルの肺ではIL-6ファミリーサイトカインの中でIL-6のみが特異的に上昇することを明らかにし、IL-6が低酸素曝露時のCD4+陽性T細胞におけるgp130シグナル伝達を担うサイトカインであることが示唆された。 以上の結果より、低酸素による肺高血圧症の病態形成においてCD4陽性T細胞におけるIL-6シグナルが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。CD4陽性T細胞におけるgp130の欠損は、低酸素により生じる肺のCD4陽性T細胞におけるSTAT3のリン酸化を抑制することにより、肺のTh17細胞増加も抑制し、肺高血圧症の表現型の改善に寄与することが示唆された。
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