研究課題/領域番号 |
21K08078
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
永田 浩三 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20378227)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メタボリックシンドローム / 心筋病態 / L-アルギニン / ミトコンドリア機能・動態 |
研究実績の概要 |
研究代表者らが確立したメタボリックシンドローム(MetS)の動物モデルとその同胞対照動物を用いてアミノ酸であるL-アルギニンのMetS病態、心筋病態への影響を検討した。 病態の安定している生後13週齢から病態が悪化する時期である17週齢まで、L-アルギニンおよびL-アルギニンに対するコントロールとして等しい窒素量のL-アラニンを各々飲水投与した。 第86回日本循環器学会学術集会(2022.3.13)で発表した研究成果の要約と考察は次の通りである。 ① MetS群では肥満とインスリン抵抗性が認められたが、既報と異なり、L-アルギニンはMetS群の肥満とインスリン感受性に影響しなかった。② L-アルギニン投与により、収縮期血圧は、CONT群では軽微な低下を認めるのみであったが、MetS群では進行性に低下し17週齢で平均40mmHg以上、CONT群のレベルまでの血圧低下が認められた。このことより、MetS群でのL-アルギニンによる降圧効果は肥満やインスリン感受性の改善とは無関係であることが示唆された。③ L-アルギニンの相当な降圧効果にもかかわらずMetS群でみられる左室肥大、左室拡張期スティフネスの増加は軽快しなかった。④ L-アルギニンは、MetS心筋における左室心筋細胞横断面積の増加、心筋マクロファージ浸潤、左室内冠血管周囲および心筋間質の線維化の程度に影響しなかった。⑤ L-アルギニンはCONT心筋のこれらの指標に影響しなかった。 MetS群における以上の結果は予想外であったが、L-アルギニンは一酸化窒素 (NO) 合成酵素とアルギナーゼの共通の基質であり、両酵素は心臓血管系に対して相反する効果をもたらすことから、病態における各臓器(心臓血管系、腎など)での両者の発現や活性のバランスにより、外因性L-アルギニンの代謝の方向性は変わり得ると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
第1群では当初の実験計画にしたがい、1.51% L-アルギニン-HCl、および2.55% L-アラニンを投与したが、本モデルが進行期の慢性腎臓病を合併するためか、MetS群においてL-アルギニン群、L-アラニン群ともに死亡例が相当数発生した。そこで、第2群以降では他の腎傷害モデルの既報を参考にして、当初用量の3分の1量(0.50% L-アルギニン-HCl、および0.85% L-アラニン)に減量して実験を実施することとし、必要なn数を確保するため、追加実験を余儀なくされたため、サンプル収集が遅れた。しかし、修正プロトコールにより、ほぼ全例がサクリファイスまで生き残ったため、以後の解析が可能となった。 現在、心筋組織よりRNAを抽出し両酵素を含む肥大、炎症、線維化に関わる遺伝子発現のreal-time RT-PCR解析を開始するとともに、ミトコンドリア機能解析およびミトコンドリア動態に関わるタンパク発現のウェスタンブロット解析の準備、本学分析機器部門バイオイメージング研究室の技術職員の指導を仰ぎ、電子顕微鏡標本作製に向け、固定・包埋済の心筋ミトコンドリアブロックの準薄切、超薄切のトレーニングに着手している。
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今後の研究の推進方策 |
L-アルギニンはNO合成の生理的基質であり、Zucker糖尿病肥満ラットにおける食餌へのL-アルギニン添加による体脂肪量の減少の報告やNOの抗炎症作用より、L-アルギニンがMetS病態を改善する可能性はあるが、心筋病態や心筋ミトコンドリア機能や動態への影響は知られていない。また、アルギニンはmTORC1非依存性、NO依存性にオートファジーを抑制するため、アルギニンのミトコンドリア機能や動態への影響は単純ではないと思われる。さらに、アルギナーゼにはアイソフォーム1, 2が知られており、興味深いことに、ラットでは心臓血管系(血管内皮細胞、血管平滑筋細胞、心筋細胞)のミトコンドリアにアルギナーゼ2が高発現すると報告されている。 R4年度以降の継続課題に備えて、今後はミトコンドリア機能と動態の解析にまず重点をおき、ミトコンドリアオートファジーや小胞体ストレスとの関連の解析はその後に余裕があれば、実施することとする。
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