研究代表者らが確立したメタボリックシンドローム(MetS)のラットモデルとやせ型対照ラットを用いて、ミトコンドリア分裂阻害薬であるMdivi-1 (Mdivi) のMetSおよび心筋病態への影響を検討した。 病態の安定している生後13週齢から病態が悪化する17週齢まで、MetSラットに対してMdiviを1 mg/kg(DMSO in saline)の濃度で隔日で腹腔内投与した。また、やせ型対称ラットとMdiviを投与しないMetSラットに対してvehicleとしてDMSO in salineを投与した。 研究成果の要約と考察は次の通りである。 ① 対照群に比しMetS群では内臓肥満、インスリン抵抗性、高血圧が認められたが、MdiviはMetS群のこれらの指標に影響しなかった。② 心エコーではMetS群で左室肥大と左室拡張障害が認められた。Mdivi投与により左室肥大の程度は変わらなかったが、左室拡張障害が改善した。③ MdiviはMetS群の左室心筋細胞肥大には影響しなかったが、左室の線維化およびマクロファージ関連炎症を抑制した。④ MdiviはMetS群における左室心筋の活性酸素種(ROS)およびNADPHオキシダーゼ活性の増加を抑制するとともに、ミトコンドリアのROS産生の増加と膜電位の低下を抑制した。 今回、DahlSラットでの既報と同一用量のMdiviを投与した結果、既報と一部異なり左室肥大には影響しなかったが、血圧と無関係に左室のマクロファージ関連炎症、線維化、拡張障害を改善するとともに、ミトコンドリア機能障害(ROS産生と膜電位低下)と細胞の酸化ストレスを抑制した。これらの結果は、ミトコンドリアの分裂異常がミトコンドリアおよび細胞の酸化ストレス、炎症、ならびに心筋傷害と関連することを示唆する興味深い所見と考えられた。
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