研究実績の概要 |
超高齢社会を迎える我が国において、全ての心疾患の終末的病態である心不全患者数は増加の一途にあり、心不全の病態評価や予後予測とともにより効果的な治療法を探索することが喫緊の課題となっている。心不全患者では交感神経活性が亢進しており、カテコラミン濃度が高い患者ほど予後不良であるため交感神経活性が予後規定因子とされる。交感神経活性が強く関与する疾患として、急性心不全で発症するたこつぼ症候群(TTS)がある。TTSは一過性の心収縮能低下を特徴とする疾患群で、その機序については多枝冠動脈攣縮説、急性冠微小循環障害説、急性カテコラミン毒性説などが考えられている。このうちカテコラミン毒性による心臓交感神経系障害は、最も有力な発症機序と考えられているが、実際の症例においてこれら交感神経系の障害・関与を直接証明した研究はなかった。我々はTTS発症急性期の心筋生検組織を用いて、交感神経系シグナル制御因子であるGRK2の発現がTTS患者心筋で亢進するとともに細胞膜に移行し、β受容体の脱感作を起こしている可能性を示唆する所見を観察し発表した(Scientific Report 8:12731, 2018)。 本研究では、TTSモデルマウスを作製し、さらに我々がヒト臨床検体を用いてTTSの病態に関与することを明らかにしたGRK2について、AAVベクターを用いてマウス心筋で高発現させるモデルマウス作製を行い、カテコラミン刺激によるβアドレナリン受容体シグナル関連分子の動態におよぼす影響を解析した。野生型マウスおよびGRK2高発現マウスに対するカテコラミン投与を行い、TTS発症の変化について観察を行ったところ、GRK2高発現マウスで心機能低下期間が遷延するなど、より重症化することがわかり、活性酸素種の産生が関与していた。 本研究で得られた知見が、心不全全般に適用可能か今後も検討を進めたい。
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