研究課題/領域番号 |
21K08090
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
増田 信奈子 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (30342851)
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研究分担者 |
松浦 勝久 東京女子医科大学, 医学部, 准教授 (70433993)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心臓線維芽細胞 / 血管新生 / タンパク質発現 |
研究実績の概要 |
血管新生は生体の恒常性維持に不可欠であり、即神経と抑制系のバランスにより制御されているが、抑制系については不明な点が多く残されている。これまでに心臓線維芽細胞が血管新生を抑制することを見出してその責任分子としてLYPD1を同定し、心臓における有意な高発現についても報告し「LYPD1は血管新生抑制活性を介して心臓における恒常的な構造およびその機能の維持に寄与する」と想定した。本研究では心臓線維芽細胞による血管新生抑制作用の生理的・病理的意義の解明に向けて、責任分子であるLYPD1の作用機序を明らかにし、機能発現制御法を探ることを目的とした。今年度はLYPD1の機能部位の同定を目指した研究をすすめた。これまでに見出した血管新生に寄与する領域に部位特異的変異を導入した変異リコンビナントLYPD1を作製し、その活性を野生型と比較評価した。得られた変異リコンビナントのうち、いくつかについては野生型LYPD1で見られる血管新生抑制活性がキャンセルされたことからLYPD1の機能部位の絞り込みを進めることが出来た。また、LYPD1リコンビナントタンパク質の調整法について検討をすすめた。今後、実施を計画している、機能部位に対する特異抗体の作製やプルダウンアッセイによる相互作用分子の同定にあたりリコンビナントLYPD1タンパク質の大量調整が必要になる。そこでLYPD1リコンビナントタンパク質大量調整に向けて昆虫細胞タンパク質発現系を適用した調整について検討をはじめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心臓線維芽細胞による血管新生抑制作用の生理的・病理的意義の解明に向けて、責任分子であるLYPD1の作用機序を明らかにするために今年度は機能部位の同定を目指した研究をすすめた。これまでにLYPD1の一部のアミノ酸配列を欠失させた変異タンパク質を哺乳類細胞タンパク質発現系により作製、解析し、血管新生抑制に寄与する領域を見出している。そこで、LYPD1近縁分子に関する知見もふまえ、これまでに見出した血管新生に寄与する領域に部位特異的変異を導入したリコンビナントLYPD1を作製し、血管内皮細胞のマトリゲルアッセイを用いてその活性を野生型リコンビナントLYPD1と比較評価した。はじめにLYPD1タンパク質の充填構造モデルから分子表面に存在すると考えられたアミノ酸残基を中心にアラニンへアミノ酸置換した変異リコンビナントLYPD1を作製した。得られた変異リコンビナントLYPD1のうち、いくつかについてはマトリゲル上での血管内皮細胞のtube formationを阻害せず野生型LYPD1に見られる血管新生抑制活性がキャンセルされ、LYPD1の機能部位の絞り込みを進めることが出来た。今後は検証した機能部位に対する特異抗体を作成しLYPD1の機能制御を目指す。 また、これまでに哺乳類細胞タンパク質発現系を用いてLYPD1リコンビナントタンパク質を作製し解析に用いてきたが、機能部位に対する特異抗体の作製に向けては大量のリコンビナントタンパク質が必要になる。加えてプルダウンアッセイによるLYPD1相互作用分子の同定についてもタグ付きLYPD1の大量調整が必要であることから、LYPD1リコンビナントタンパク質大量調整を目的として昆虫細胞タンパク質発現系を適用した調整について検討をはじめた。
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今後の研究の推進方策 |
機能部位に対する特異抗体の作製やプルダウンアッセイによるLYPD1相互作用分子の同定に供するリコンビナントLYPD1の大量調整にむけて、昆虫細胞タンパク質発現系を用いた調整法の検討をすすめる。昆虫細胞タンパク質発現系を用いて調整したLYPD1タグ付きタンパク質は、血管内皮細胞のマトリゲルアッセイにより血管新生抑制活性を評価し、これまでに用いてきた哺乳類細胞タンパク質発現系で調整したリコンビナントタンパク質の代替として用いることができるか検討する。血管新生抑制活性のあるリコンビナントLYPD1が得られたら、昆虫細胞タンパク質発現系を用いてLYPD1リコンビナントタンパク質の大量調整を試みる。 また、機能部位を同定後は立体構造モデルを作製し、in silico docking studyによるLYPD1の特異的機能阻害剤となりうる低分子化合物のスクリーニングを目指す。 LYPD1の相互作用分子の同定については、昆虫細胞タンパク質発現系を用いて調整したLYPD1タグ付きタンパク質をベイトとして血管内皮細胞膜画分よりプルダウンアッセイを行い、LYPD1を含む複合体に含まれる分子について質量分析による同定を試みる。 LYPD1発現制御への寄与が示唆されている転写因子Xについて、ラットを用いて生体における発現をリアルタイム定量PCR、ウェスタンブロットおよび免疫染色等で検証しLYPD1発現制御の可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも進展があったため、今年度内の質量分析外注費用の必要性を鑑み前倒し支払い請求を行ない承認されたが、年度内に外注の発注までは至らなかったため、外注および外注サンプルの調整に充てるための費用は計上されず「次年度使用額」が発生した。申請時の計画通り次年度以降に質量分析の外注を行うこととなるため、発生した「次年度使用額」はそれに充てる。前倒し支払い請求に伴い令和4、5年度の請求金額は減る予定であったが、研究期間内に予定している質量分析外注費用には「次年度使用額」を充てるため、研究遂行上で大きな問題はない。
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