研究課題/領域番号 |
21K08098
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 敏弘 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (50802394)
|
研究分担者 |
東邦 康智 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (10586481)
瀧本 英樹 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20709513)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | ドパミン受容体 / 心不全 / D1R / 小胞体ストレス / 細胞死 / アポトーシス |
研究実績の概要 |
申請者は先行研究において、圧負荷モデルマウス及びヒト心不全の心臓組織の遺伝子発現を網羅的に解析し、いずれの種の心臓組織においても発現が著増する遺伝子としてドパミン受容体D1を同定するとともに、同受容体(D1R)が心不全時の致死的不整脈の発症に寄与していることを明らかとした。また、D1Rの発現増加は先行研究の1細胞RNAシーケンスで示したように、すべての心筋細胞で生じているわけではなく、限局的な細胞で生じていることも明らかとなった。しかし、心不全時の心臓D1Rが増加するのか、また発現増加する心筋細胞がどのように局在するのか、またその特性については明らかとなっていない。本研究では、心不全時の心臓D1Rの発現制御機構と局在及び特性に着目することで、重症心不全のメカニズムの解明を目指している。 本研究ではこれまで、心不全時のD1Rの発現を制御する因子について、不全心を用いたDrd1 promoter領域のモチーフ解析により同定したNuclear factor-kappa B(NF-kB)及び心不全時に誘導されNF-kB pathwayを活性化することが既に知られている小胞体ストレスに着目して解析を進めてきた結果、Drd1の発現増加にNF-kB pathwayの活性化が寄与していることを示してきた。 本年度の研究では、1細胞シーケンスの解析により、D1R高発現細胞の機能解析を試みたが、検出されるD1R高発現細胞の数が少ないこともあり、その詳細な機能分析を行うことは困難であった。この分析状況も踏まえ、本研究では、これまで着目してきた小胞体ストレスがアポトーシス等の細胞死にも関与していることに着目し、心不全時の心臓D1Rの発現制御機構の更なる解析を進めることにより重症心不全のメカニズムの解明を目指すこととする。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においては、1細胞シーケンスの解析により、D1R高発現細胞の機能解析を試みたが、検出されるD1R高発現細胞の数が少ないこともあり、その詳細な機能分析を行うことは困難であった。 このため、これまでの研究結果も踏まえ、小胞体ストレスがアポトーシス等の細胞死にも関与していることに着目し、心不全時の心臓D1Rの発現制御機構の更なる解析を進めることにより重症心不全のメカニズムの解明を目指すこととした。心不全においては心筋細胞の肥大のみならず細胞死も一部に生じていることが知られており、申請者らはD1Rの発現が不全心筋における細胞死と関連している可能性について想起した。この仮説を検証するにあたり、現在申請者らが着目しているシグナル経路Yは、心不全における病的肥大のみならず、系によっては細胞のアポトーシスにも関連することが示されており、この経路に着目した解析がD1Rの発現特性を解明すると仮説を立て、検証を行うこととした。実際に、シグナル経路Yの遺伝子改変マウスを利用して圧負荷心不全モデルを作成し、心筋細胞のRNAシーケンスを行ったところ、野生型と比較して肥大関連遺伝子は抑制されたもののD1Rの発現は低下しないという結果であった。この結果は、圧負荷心不全モデルにおいて検出されるD1R高発現細胞が少ないことと関連していると考えられるとともに、仮説の通り、D1Rの発現に肥大以外の心不全のメカニズムが関与していることを示唆するものであった。今後、細胞死とD1R発現との関連について更なる検証を行う。 上記のとおり、一部分析困難な状況もあったものの、同分析状況等も踏まえつつ、重症心不全のメカニズムの解明という観点では、引き続きおおむね順調に進展しているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
研究最終年度においては、これまでの圧負荷心不全モデルのみならず、心筋細胞死および虚血性心不全を引き起こす心筋梗塞モデルなど様々な心不全モデルにおける心筋細胞のD1R発現をシグナル経路Yに着目して検証することにより、in vivoにおけるD1R発現制御機構の更なる解明及びD1R高発現細胞の特性の解明につながる成果を得ることを目指すこととする。これにより、D1Rと関連した重症心不全のメカニズムの更なる解明に繋がるものと考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究において、D1R高発現細胞の機能解析を進めることができなかったこともあり、次年度使用額が生じたが、翌年度分として、心不全時の心臓D1Rの発現制御機構の更なる解析を進める際の使用を計画する。
|