研究課題/領域番号 |
21K08110
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
丹野 雅也 札幌医科大学, 保健医療学部, 教授 (00398322)
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研究分担者 |
久野 篤史 札幌医科大学, 医学部, 教授 (30468079)
矢野 俊之 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40444913)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖尿病性心筋症 / AMPデアミナーゼ / ミトコンドリア近接小胞体膜 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
我々は以前、肥満インスリン抵抗性2型糖尿病モデルラット(OLETF)において心筋AMPデアミナーゼ(AMPD)の活性亢進が拡張機能障害に寄与することを報告した。本研究ではミトコンドリア近接小胞体膜(MAM)におけるAMPDの役割について検討した。 OLETFまたは非糖尿病対照ラット(LETO)の左室心筋組織を細胞分画しラット心筋主要アイソフォームであるAMPD3蛋白レベルを定量したところ、全長型90-kDa AMPD3のMAMにおける発現レベルはOLETFにおいてLETOより有意に高値であった。次に電子顕微鏡で観察したMAM領域の形成はOLETFにおいてLETOよりも優位に増加しており、また、圧負荷下の左室心筋ミトコンドリアCa2+濃度はOLETFにおいてLETOよりも有意に高かった。HEK293細胞におけるミトコンドリアCa2+濃度はFLAG-AMPD3過剰発現により有意に上昇し、MAM形成も促進された。さらにミトコンドリア透過性遷移孔開孔閾値の指標であるミトコンドリアCa2+取り込み能(CRC)はOLETFの左室心筋ミトコンドリアにおいてLETOよりも有意に低く、同様にH9c2細胞やHEK293細胞において、FLAG-AMPD3の過剰発現によりCRCは有意に低下した。最後にHEK293細胞ミトコンドリアにおいてstate 3呼吸および最大呼吸はFLAG-AMPD3の過剰発現により有意に低下した。 これらの成績からAMPD3は心筋細胞においてMAM形成を促進すること、および2型糖尿病を合併する心臓においてMAMに局在するAMPD3の発現増加はミトコンドリアCa2+過負荷とミトコンドリア呼吸鎖機能障害を介して糖尿病性心筋症の発症進展に寄与することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の仮説通りの実験結果は得られなかったが、予想外の実験結果に応じて新たに立案した仮説の検証のための実験は、順調であり、興味深い実験成績が得られ、ミトコンドリア-小胞体近接領域に局在するAMPデアミナーゼがミトコンドリアCa2+過負荷、state3呼吸能の低下を介して糖尿病性心筋症の発症進展に寄与することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリア-小胞体近接領域(MAM)に局在するAMPデアミナーゼがミトコンドリアCa2+過負荷、state3呼吸能の低下を介して糖尿病性心筋症の発症進展に寄与することが示されたため、今後はAMPデアミナーゼがMAMに局在する機序について解析をすすめる予定である。本研究ではAMPD3が他のMAM局在蛋白との相互作用によりMAMに局在するという仮説を検証する。MAM分画蛋白をAMPD3抗体で免疫沈降し、沈降物の二次元電気泳動で得られたスポットに含まれる蛋白をTOF/MSで同定する。同定された蛋白を単離心筋細胞において順次siRNAにより発現抑制後にAMPD3のMAM局在を観察し、AMPD3のMAM局在に寄与する結合蛋白 (protein X) を同定する。さらにAMPD3の一連の欠失変異体/点変異体を作成し、ラット心筋細胞にトランスフェクションしてMAMへの局在を解析し、protein Xとの結合部位を同定する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、多数の予備実験により実験条件の至適化を予定していたが(各種ウェスタンブロッティングの抗体の至適使用条件設定、ベクターのトランスフェクション条件設定など)、当教室における他の研究プロジェクトが先行して同定した条件を用いることにより、省略可能となり、試薬、物品費などが節約することができたため。 今年度はMAM分画におけるAMPD3との結合蛋白と結合部位の同定を目指すため多くの遺伝子導入試薬を使用する予定であり、昨年度の余剰分を有効に利用したい。
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