研究課題
研究者らは糖尿病性心筋症において、AMPデアミナーゼ(AMPD)の活性亢進が左室収縮能の維持された心不全(HFpEF)の原因となることを見出した(Kouzu et al. 2015)。ミトコンドリアが接触する小胞体膜はMitochondria-associated ER membrane(MAM)と呼ばれさまざまなタンパク質が局在し重要な生理機能を担う。その中でもMAMを介した小胞体からミトコンドリアへのCa2+の輸送については多くの研究がなされ注目されている。ミトコンドリアにおけるCa2+はATP産生に必須の酵素の活性化に必要である一方、Ca2+過負荷はミトコンドリア透過性遷移孔の開孔を誘導し、膜電位の低下によるミトコンドリア呼吸能の低下や細胞死の原因となる。したがってMAMの機能適正化によるミトコンドリアCa2+レベルの制御は細胞の恒常性維持に極めて重要であり、実際に心機能障害を呈する1型糖尿病動物モデルの心筋においてMAM形成の亢進がミトコンドリアCa2+過負荷に寄与することが報告されている。本研究ではMAM分画蛋白を解析し、左室心筋MAM分画におけるAMPDの発現量は2型糖尿病ラットにおいて非糖尿病対照ラットと比較して有意に高いことを見出した。さらにH9c2細胞、HEK293細胞などに過剰発現させたAMPDが細胞質およびMAMに局在することに加え、これらの細胞ではMAMの形成が促進されること、ミトコンドリアCa2+レベルが上昇すること、酸化ストレスによるミトコンドリア膜電位低下が助長されることを見出し発表した(Osanami et al. 2023)。これらの成績はAMPDがMAM蛋白との相互作用によりMAM形成を促進し、ミトコンドリアCa2+過負荷を介して心機能障害に寄与する可能性を示唆し、糖尿病性心筋症における新規治療標的となり得ると考えられた。
すべて 2023
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J Diabetes Investig
巻: 14 ページ: 560-569
10.1111/jdi.13982.