研究課題/領域番号 |
21K08122
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中山 幸輝 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70721885)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 心不全 / 造血幹細胞 |
研究実績の概要 |
高齢化に伴って心不全の罹患率は増加しているが、高齢者心不全は多臓器疾患を合併し、入院を繰り返すため予後不良である。我々のこれまでの研究で、心不全になると骨髄内の活性型TGFβ濃度が低下し、造血幹細胞がエピジェネティック変化を起こすことが分かった。これにより、末梢血白血球分化が変容するのみならず、末梢血単球から、様々な臓器における組織保護的マクロファージへの分化をも障害された。これにより、様々な外的シグナルに対して可塑性を失い、炎症型の表現型になることが心不全の病態生理において重要と考えた。 心不全を経験した造血幹細胞は、それ自体で心臓をより線維化させ、機能障害を引き起こした。さらに、一度心不全になると心機能悪化が促進されると共に、心臓以外の臓器における組織マクロファージの発現変化を引き起こして、ドミノ状に全身合併症を発症する病態基盤と考えられた。本研究では、心不全でどのように骨髄ニッチが変わるのか、造血幹細胞クローンの変化が病態形成に寄与する末梢血単球、組織マクロファージをどのように形成し、最終的に臓器の機能障害からどのようにカヘキシアに至らしめるのかという、上流から下流までの分子機構を解明し、新規治療法開発のための基盤の確立を目指す。 今回の研究成果により、一度心不全を発症すると、そのストレスが求心性神経を介して脳に伝達され、脳から遠心性神経を介して、骨髄内の造血ニッチに変化を生じさせ、造血幹細胞のエピゲノム変化を生じさせるという心臓・脳・骨髄間の臓器間連携が示唆された。この臓器間連携で生じた造血幹細胞によるエピゲノム変化によって、その造血幹細胞が末梢臓器に移行し、組織マクロファージとなった際に、心臓、腎臓、骨格筋などの機能異常を引き起こし、心不全、腎不全、フレイル、カヘキシアを連鎖的に生じさせるという全身合併症の新たな機序解明は、新たな心不全治療標的の同定に繋がると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CD45.1マウスとCD45.2マウスを使用して、心不全マウスの骨髄由来の単球が心臓マクロファージに分化しづらくなることを示した。心臓マクロファージは均一の集団ではなく、heterogeneityが高い。一細胞トランスクリプトーム解析が有用であり、今回の研究によって、より明確に炎症性サイトカインの発現亢進や、組織保護的な成熟型心臓マクロファージの現象が示された。 また、骨髄内での活性型TGFβの発現制御には骨髄内の交感神経周囲のシュワン細胞が重要な役割を果たしていることが報告されている。今回の研究により、心不全になると、骨髄内の交感神経活性が低下していることが分かった。このニューロパチーが心不全における骨髄の構造的リモデリングの原因であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
骨髄の交感神経活性が低下する機序の解明は、心不全における骨髄造血幹細胞のエピゲノム変化への介入を可能にする。あらたな心不全の治療標的の同定を目指して、交感神経の より上流の支配や制御機構について解析を進める。 一方で、交感神経活性が低下することに伴い、心不全後に骨髄の病的な微小環境形成が行われると考えられる。骨髄ニッチの他の細胞、間質幹細胞や内皮細胞のエピゲノム、トランスクリプトーム解析を行うことで、構造的リモデリングの分子機序を解明し、心不全時のTGFβ以外のサイトカイン発現の変化にも注目する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のたまに出席予定だった海外学会が中止となったため。また、最終年度を延長した基盤Cの残金から物品費を使用することができたため。
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