研究課題/領域番号 |
21K08138
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
高野 仁司 日本医科大学, 医学部, 准教授 (90277533)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 肥大型心筋症 / 心不全 / 人工知能 / 自動診断 |
研究実績の概要 |
肥大型心筋症(HCM)は心室筋が不均一かつ不適切に肥大する疾患で多彩な症状と転帰を呈するが、多くの患者では心機能は最後まで保持され比較的予後が良い疾患と考えられている。しかし、一部の患者では収縮能が徐々に低下し最終的には拡張型心筋症様のいわゆる拡張相肥大型心筋症(Dilated Phase of HCM, d-HCM)へ移行し、通常のHCMあるいは拡張型心筋症に比し致死性不整脈の頻度が増し心不全治療にも抵抗するより予後が悪い病態へ変化することが知られているが、その予測因子や介入による予防方法は未知である。 近年、人工知能(AI)を用いて心電図の微妙な変化を検出し、緊急治療の必要性や不整脈発症の予測を検出する試みが用いられている。肥大型心筋症患者の収縮能低下・d-HCMへの移行は長い年月を経て移行することから、微細な経時的心電図変化が見逃される可能性が高い。本研究において我々は、肥大型心筋症患者の12誘導心電図の経時的変化を基本として、さらにベースラインでの心エコー所見・心臓磁気共鳴画像(CMR)所見、経時的に得られる心筋マーカーの数値、d-HCM移行の家族歴といった上昇を加味し、収縮能低下およびd-HCMへの移行確率を両方向性長・短期記憶(LSTM)を用いた長期ニューラルネットワーク(RNN)によるAIを用いて予測する研究を行っている。 研究開始初年度である2021年度では、対象患者の選択と初診時の基礎データの入力を行った。現在通院中の患者319人のうち, PTSMA施行, ペースメーカ調律, 2年以内に死亡・脱落した症例を除外した168人(男101名, 63.4±14.8歳)を対象とし、左室駆出率の推移を検討した結果、37人に左室駆出率10%以上の低下が認められていることが判明した。今後、これらの患者の心電図変化を含めた各指標の経時的変化を分析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予備研究として当院通院中の患者319人のうち, PTSMA施行, ペースメーカ調律, 2年以内に死亡・脱落した症例を除外した168人(男101名, 63.4±14.8歳)を対象として予測因子の検出を行った。平均6年間の追跡で初診時より左室駆出率(LVEF)が10%以上低下した37人(D群)とコントロール群131人(C群)の2群に分け臨床指標を比較検討し、有意差またはその傾向がある指標を用いたスコア化によりLVEF低下の予測が可能かを検討した結果、糖尿病の合併、12誘導心電図の完全右脚ブロック, QRS幅(>100msec), 心房細動の5項目を各1点としてスコア化したところ,0点と比較し, 2点もしくは3点(OR 2.042,95% CI 0.983-4.243,P = 0.056),4点(OR 12.000,95% CI 2.313-62.267,P = 0.003)と高スコアほどLVEF10%以上低下が高率に発症していることが判明し、これらの複合が予測因子となる可能性が示されている。.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行った予備研究により、肥大型心筋症患者の左室駆出率低下を予測する因子として、糖尿病の合併、12誘導心電図の完全右脚ブロック, QRS幅(>100msec), 心房細動の5項目が有力候補として示されている。今後は、これらの対象患者を更に詳細に各指標の経時的変化も併せて解析し、より鋭敏な予測因子となり得るかを検討し人工知能ソフトを用いて予測プログラムを作成していく。そのプラグラムに関し、新規患者を登録し前向き研究による検証と、従来行われているレジストリ研究を用いた後ろ向き研究において検証を行い、本予測システムの普遍性について検証を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の予算として計上した人工知能プログラムソフトのうち機会学習に関するツールボックスに関しては、来年度以降にライセンスを購入する必要が生じたことより、翌年度分として請求することにした。
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