研究課題/領域番号 |
21K08141
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
小原 幸 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (80275198)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 心不全 |
研究実績の概要 |
本年度は、新生仔ラット培養心筋細胞からの細胞外ミトコンドリア放出と放出ミトコンドリアの障害について検討した。新生仔ラット培養心筋細胞に低酸素再酸素化(H/R)刺激を行い、培養上清を回収した。培養上清中へのミトコンドリア単体放出、あるいはエキソソーム放出を検出する目的で、MitoView green染色DiI染色を各々行った。共焦点レーザー顕微鏡で蛍光染色の確認を行ったところ、MitoView green陽性ミトコンドリア放出は認めたが、DiI陽性小粒子はほとんど認めなかった。心筋細胞への刺激条件や、染色条件を変えて検討したが、いずれも明らかなDiI陽性小粒子は認められなかった。従って、低酸素再酸素化条件では単体としてミトコンドリア放出が主だと考えられた。ミトコンドリア蛍光プローブ以外にも、培養上清中のミトコンドリア放出をミトコンドリア特異タンパクであるTom20のWesternblot法で確認した。H/R刺激後の培養上清においてTom20タンパクの含有量増加が認められた。H/R刺激後の培養上清より遠心分離法で放出ミトコンドリアの分画を得て、新たな培養心筋細胞上清に加えたところ、軽度ではあるが細胞壊死を導き自己心拍のレートの減少が認められ、心筋細胞に対する障害性が観察された。 また、新生仔ラット培養心筋細胞において、H/R刺激による障害に対するホノキオールの保護効果を検討した。ホノキオール投与は心筋H/R障害に伴う細胞壊死やアポトーシス細胞死を軽減していた。ホノキオールはH/R刺激に伴う心筋細胞内酸化ストレス増強を軽減していた。その機序にミトコンドリアSIRT3の保持によるSOD2脱アセチル化及び細胞内ATPの保持が認められた。さらに、本薬剤の投与により細胞外ミトコンドリア放出も軽減されていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は培養細胞実験を行った。心筋細胞培養上清へのミトコンドリア封入エキソソームの検出を心がけた。複数回検出手段を変えて試みたが培養に用いる牛胎児血清由来のものを除外し、心筋細胞由来のエキソソームを解析可能な容量で検出することができなかった。心筋培養細胞は分裂能を持たないため、初代培養のみしか用いられず大量培養が技術的に困難であり、エキソソーム放出量が多くなかった原因と考えている。エキソソーム検出の手技調整に時間がかかり、全体の進行がやや遅れた。 但し、単体としてのミトコンドリア放出を蛍光染色で認め、同分画を加えた培養上清による心筋細胞障害性を見出せたため、今後放出ミトコンドリアの性状をより詳細に検討し、骨格筋細胞に対する細胞障害性を培養系で確認するとともに、in vivo実験を行っていく予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
障害心筋において、細胞死とともに単体としてのミトコンドリア放出が認められ、放出ミトコンドリア分画に心筋細胞障害性を見出せた。今後は、放出ミトコンドリアの細胞障害惹起機序を検討するため、ミトコンドリア活性酸素種産生能を検討する。また、細胞間・臓器間の障害惹起の有無を検討するため、放出ミトコンドリアを線維芽細胞や骨格筋細胞に投与し細胞毒性を検討する。 本年度は最終年度であり、成獣を用いた臓器間ネットワーク検討を行う。心筋梗塞モデルと大動脈縮窄による圧負荷肥大心を作成し、血中へのミトコンドリア放出量の増加を検討する。また放出ミトコンドリアによる心筋及び骨格筋細胞への障害の有無を培養細胞への添加実験で検討する。さらにミトコンドリア放出を来す心不全モデルにおける、骨格筋障害を評価し、中和抗体による放出ミトコンドリア除去が骨格筋障害を軽減するか否かを検討する。また心不全動物の血液検体からビーズソーティングで回収したミトコンドリアを健常ラットに投与し、心筋骨格筋障害の誘導の有無を検討し、成果を論文化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度培養実験でエキソソームの同定が困難で時間を要した。そのため、成獣を使った実験に至らず成獣実験で予定していた抗体等の試薬の購入を見送り、次年度としたため次年度使用額が生じた。心筋培養実験は概ね終了の目途が立っているが、線維芽細胞と骨格筋細胞の培養実験に関する試薬が必要となる。また先延ばししていた抗体試薬、ビーズソーティング関連試薬を購入し成獣での検討をすすめていく予定をしている。
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