研究課題
特発性肺線維症 (IPF) は、不可逆的に線維化が進行する予後不良の難治性疾患である。喫煙などによる肺の慢性的な炎症反応によって生じる組織障害と、その修復・治癒過程における細胞外マトリックスの過剰な合成・蓄積が線維化を引き起こし、最終的に機能障害をきたすと考えられている。しかし、その病態は未解明な点が多く、症状を改善させる新規治療薬の開発が強く望まれている。本研究は、IPF患者の肺の線維化領域の線維芽細胞は非線維化領域の線維芽細胞と比較して、脂質代謝関連分子Angiopoietin-like 4 (ANGPTL4) を高発現することに着目し、ANGPTL4産生機構ならびに線維化に与える影響から肺線維症の病態を明らかにし、ANGPTL4を標的とした肺線維症の診断・治療法の開発に向けた基盤を確立することを目的とする。肺線維芽細胞において、ANGPTL4は線維化誘導のマスターレギュレーターであるトランスフォーミング増殖因子(TGF-beta)の刺激によって、細胞外マトリックスの構成成分であるI型コラーゲンの産生よりも早期に誘導されることを明らかにした。ブレオマイシン投与による肺線維症マウスモデルにおいても、ANGPTL4は線維化誘導の早期に一過性に発現誘導されることを明らかにした。また、ANGPTL4欠損マウスにおける同モデルの病態を解析し、ANGPTL4の欠損は肺の線維化ならびにコラーゲン産生を低下させ、病態を改善させることを明らかにした。以上の結果から、ANGPTL4は肺線維症の発症過程の早期に発現誘導される増悪因子であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
肺線維症動物モデルにおいて、ANGPTL4は線維化誘導の早期に活性化線維芽細胞から産生される病態増悪化因子であることを明らかにできたことから、おおむね順調に進展していると判断した。
肺線維症の病態モデルにおいて、ANGPTL4はどのような状態の線維芽細胞から産生されるかを明らかにするために、ANGPTL4発現細胞の性質をシングルセル遺伝子発現解析の表現系などから解析する。また、ANGPTL4は線維症の増悪因子と考えられることから、肺線維芽細胞におけるANGPTL4の発現をsiRNAなどにより制御し、病態増悪化の機序を検討する。
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