研究課題/領域番号 |
21K08165
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
小池 建吾 順天堂大学, 医学部, 助教 (70858092)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | スフィンゴ糖脂質 / 慢性閉塞性肺疾患 / 喫煙 |
研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患は、タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露する事で発症する難治性呼吸器疾患である。細胞膜の脂質二重層を構成するスフィンゴ糖脂質の一つであるGlucosylceramide(GlcCer)が、タバコ煙曝露下での肺血管内皮細胞の生存に必須である事を我々は報告したが、いまだにその他の肺細胞での働きは不明である。そこで、GlcCerの血管内皮細胞以外の肺細胞での役割やGlcCer以外のCOPD病態生理に関わるスフィンゴ糖脂質の発見を目的として実験計画を立案した。まず、Glucosylceramide産生酵素(Glucosylceramide synthase: GCS)の肺気道上皮細胞での役割について調査した。肺気道上皮細胞の細胞培養液中にタバコ煙抽出液を投与したところ、GCSの蛋白発現量が低下する事を確認した。さらに、タバコ煙抽出液やGCS活性阻害薬が、アポトーシスマーカーのcleaved PARP1やBaxを増加させる事やオートファジー関連蛋白のLC3BII等を増加させる事をウェスタンブロットで確認した。また、細胞シグナル伝達への影響を調査したところ、GCS活性阻害薬によるGCS阻害はmTOR signaling下流のリボソームタンパク質S6のリン酸化を抑制することを発見した。肺気道上皮細胞の細胞生存・増殖・オートファジーにGCSが貢献している可能性が示唆され、さらなる検証を行っていく。また、GlcCer以外のスフィンゴ糖脂質もCOPD患者の血清で有意に変化していたことから、GCS以外のスフィンゴ糖脂質の産生に関わる酵素について調査をした。具体的には野生型マウスに喫煙曝露を行い、肺組織での酵素のmRNAをリアルタイムPCRで測定したところ、1か月曝露の肺検体にて、喫煙曝露によって複数の酵素のmRNA減少傾向を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところは予定通りに進行しており、今後も研究を継続していく。
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今後の研究の推進方策 |
In vitro実験については、GCS阻害薬(Genz-123346)によるGCS阻害においてoff-target effectsが生じている可能性を考慮し、siRNAを用いてGCS活性を抑制してGenz-123346を使用した時と同様の結果が生じるか確認する予定である。阻害薬とsiRNAで同様の結果が得られるようなら、GCSが肺気道上皮細胞のmTOR signaling制御に関わる事が示され、上流のPI3KやAKT等のリン酸化にも関わるかどうか調査を行う。またGCS阻害によってアポトーシス促進性タンパク質であるBaxが増加する事から、抗アポトーシスタンパクであるBcl-2の変化についても調査する。そして、タバコ煙抽出液やGCS阻害によって肺気道上皮細胞で生じるスフィンゴ糖脂質の変化について液体クロマトグラフ質量分析計を用いて測定する。さらに、タバコ抽出液やGCS阻害が肺気道上皮細胞に引き起こされるアポトーシスやオートファジー障害をGlcCer投与が軽減できるかどうか検証する。またin vivo実験では、野生型マウスに対する喫煙曝露の期間を延長し、1か月以上の喫煙で変化するスフィンゴ糖脂質に関連した酵素を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を検討したELISA kitが10万円以上のため、昨年の残額(77,425円)では購入する事ができなかった。本年度に使用予定である。
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