肺がんは、様々な原因遺伝子異常に対応した分子標的薬により腫瘍が著明に縮小するが一部のがん細胞(drug tolerant細胞)が残存し後に薬剤耐性となるため根治に至らない.SHP2 は種々のがん増殖シグナルを下流に伝達する重要なチロシンホスファターゼであるが、申請者らは、このSHP2を阻害するとtolerant細胞の残存を抑制できる可能性を見出した.本研究では、様々なタイプの遺伝子異常を持つ肺がんでSHP2阻害によるtolerant細胞抑制効果を確認し、tolerant細胞におけるSHP2シグナルの重要性を明らかにする.研究の方法として、1) SHP2阻害薬による腫瘍残存抑制効果の確認、2) 残存腫瘍の網羅的解析(受容体チロシンリン酸化アレイ・遺伝子発現パネル解析)によるSHP2を介したtolerant細胞残存メカニズムの解明を行う.将来的にSHP2シグナル経路を標的とした、より根治性の高い治療開発につなげることを目標とする. 昨年度までの検討でSHP2/MAPK経路を介したCDK4/6シグナルがtolerant細胞の維持に関わる可能性を示した.また、EGFR遺伝子変異陽性肺癌細胞において、CDK4/6阻害薬とEGFR阻害薬を併用することにより、tolerance細胞を阻害し、EGFR単独よりもさらに効果的にがん細胞を抑制することを in vitroおよびin vivoの実験系により確認した.今年度は、siRNAを用いたCDK4のノックダウンによりtolerant細胞の抑制効果を確認し、さらにSHP2の下流であるErkを抑制することでCDK4/6シグナルに関わるpRBを抑制することを明らかとした。また、EGFR肺癌残存腫瘍検体を用いた網羅的遺伝子発現解析(マルチオミクス解析)を実施しし、現在データ解析を実施中である.
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