研究課題/領域番号 |
21K08189
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
青柴 和徹 東京医科大学, 医学部, 教授 (60231776)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 肺癌 / 上皮間葉転換 / 低酸素 / アシドーシス / E-カドヘリン / 乳酸 |
研究実績の概要 |
低酸素刺激はHIF1経路を介した上皮間葉転換 (epithelial mesenchymal transition: EMT)を誘導して癌細胞の浸潤と転移を促進すると考えられているが、その制御法は見つかっていない。本年度の研究においては、1%低酸素曝露により誘導される肺癌A549細胞のEMTが、低酸素曝露時に生じる細胞外液(培養液)の乳酸蓄積による酸性化(アシドーシス)を中和することによりほぼ完全に抑制できることを見出した。さらに低酸素曝露によるEMTが生じた後に細胞外液のアシドーシスを中和するとEMTから可逆的に間葉上皮転換(mesenchymal epithelial transition: MET)を起こすことができた。一方、中性の乳酸ナトリウムを加えても低酸素曝露によるEMTは亢進しなかった。以上の結果からA549細胞の低酸素によるEMT誘導には乳酸増加による細胞外液のアシドーシスが必要であると考えられた。その機序として低酸素曝露時のアシドーシスがE-cadherin遺伝子の発現抑制とE-cadherin蛋白の分解促進という2つの機序を介してEMTを促進するというデータが得ることができた。したがって腫瘍微小環境におけるアシドーシスの中和が低酸素による肺癌の浸潤や転移を制御する有望な治療標的になると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
A549細胞以外の肺癌細胞株 (H1299、H1975、PC3)についても同様にアシドーシスの中和による低酸素曝露EMTの抑制効果が認められるかを検討する予定であったが、達成することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
アシドーシスが低酸素経路に与える影響は明らかではないが、文献的には1) PHD/VHLを介したHIF1/HIF2分解抑制、2) HSP-90活性化によるHIF1/HIF2活性化、3) CREB活性化、3) 代謝リプログラミング (fatty acid oxidation/synthesis、acetyl-CoA synthetase活性化、fumarate hydratase不活化、mitochondria electron transport complexのhyperacetylationなど)、4) stress responseの活性化 (AMPK、TXNIP、ARRDC4など)、5) pH sensorsの活性化 (GPR4, GPR65、TRPV1、ASIC1) などの可能性が想定される。そこでアシドーシスによる低酸素性EMTの誘導機序を解明するために、上記の経路に関わるmRNA/蛋白質発現 (qPCR、western blotting、EMT SignArray、ミアテスト、miRNAscopeなど)、脂肪酸代謝 (FAOBlueなど)および薬理的/遺伝子的阻害実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬購入代が節約できたために46661円の次年度使用額が生じた。次年度の試薬購入費に充てる予定である。
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