研究実績の概要 |
免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の登場により、生体の免疫が癌を拒絶し得ることが明らかとなった。しかし、ICI単独療法での奏効率は10-40%と限定的である。また、ICIの特徴として、自己免疫性の免疫関連有害事象(irAE)を起こす症例がある。これらの副作用を予測することは困難である上に、重篤な場合は致死的になりうることから、ICIの効果だけでなく、irAEの発症をその使用前に予測できるバイオマーカーの開発は喫緊の課題である。腫瘍に対する液性免疫応答は発癌過程の極めて早い段階で誘導されており、それに伴って癌抗原を認識する血中自己抗体が出現することが知られてきた。また、自己免疫疾患や血中自己抗体の存在は、免疫チェックポイント阻害剤の効果やirAEの発症と関連していることが示唆されている。このことから、血中自己抗体はirAE発症リスク予測において有望なバイオマーカープラットフォームと考えられる。本研究は、ICIを使用後にirAEとして間質性肺炎、大腸炎を発症した肺癌症例とirAEを発症しなかった肺癌症例からICI使用前に採取した血漿を用いて、血漿自己抗体結合抗原の網羅的プロテオーム解析を行い、検体当たり平均1,400個を超える自己抗体結合抗原を同定した。クラスタリング解析においてirAEを発症した症例と発症しなかった症例で血中自己抗体プロファイルが弁別されたことから、irAEの予測に有用な血中自己抗体が存在することが示唆された。この解析結果から選択されたirAEと関連する一群の抗原について、現在独立した血漿検体を用いてその自己抗体レベルの解析を進めている。
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