研究実績の概要 |
悪性中皮腫は現在有効な治療法が確立されておらず、今後罹患者の増加が予測されているため、新規治療の開発が要求されている。北海道大学腫瘍病理学教室で開発されたハイドロゲル(DN gell: double network gell)を用いた迅速な癌幹細胞誘導技術(Nature Biomedical Engineering, 2021)により中皮腫幹細胞の性状解析、治療標的分子の同定を行うことを目的としている。 悪性中皮腫の細胞株(211H, H2052, H2452, Meso4, H28)をハイドロゲル上で培養すると、すべての細胞株で腫瘍細胞が集塊を形成した。一般的な幹細胞マーカーとして知られるSOX2、NANOG、OCT3/4のmRNAをqPCR法で調べると、NANOG、OCT3/4の発現増加が確認できた。これによりハイドロゲルによる癌幹細胞誘導技術は、悪性中皮腫の細胞株にも応用可能であることが示唆される。次にハイドロゲル上で培養した悪性中皮腫の細胞株(Meso4)の遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイにより調べた。通常のpolystyrene dishやultra-low attachment surface dishで培養した比較対照群に対して、20倍以上の遺伝子発現増加を示す23遺伝子を同定した。細胞膜への局在が予測されている8遺伝子に着目して、qPCR法でも遺伝子発現の増加が確認できたのは4遺伝子であった。Meso4以外の細胞株(211H, H2052, H2452, H28)でも4遺伝子の発現をqPCR法で調べたところ、3遺伝子がMeso4と同様に発現増加を示した。この3遺伝子を悪性中皮腫の幹細胞マーカー候補遺伝子として解析を進める予定である。
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