研究実績の概要 |
最終年度では、DNゲルに加え、新規ハイドロゲルのPCDME, PNaSSを実験に用いた。ハイドロゲルによる細胞培養で、候補遺伝子(SLC13A5, TMEM151B, HCRTR2)のうちSLC13A5の蛋白質発現が亢進することを見出した。SLC13A5を過剰発現させたHEK293T細胞を作製し、ウエスタンブロット法により蛋白質発現を調べたところ、SOX2の発現亢進がみられた。また、SLC13A5過剰発現細胞にシスプラチンを投与すると、対照細胞に対してシスプラチン抵抗性が亢進することが示唆された。このことからSLC13A5の幹細胞性誘導や治療抵抗性への関与が示唆された。マイクロアレイによるRNA発現データに対するGene Set Enrichment Analysisでは、DNゲルによる細胞培養でクエン酸回路に関わる遺伝子群の発現亢進が示唆された。SLC13A5過剰発現細胞で酸化的リン酸化の評価を行なったところ、対照細胞と比較して基礎呼吸活性、最大呼吸活性、酸素消費速度/細胞外酸性化速度比の増加を認め、酸化的リン酸化が亢進している可能性を見出した。一部のがん幹細胞では酸化的リン酸化に依存する代謝が行われていることが知られており、酸化的リン酸化へのシフトにSLC13A5が関与している可能性があった。 研究期間全体を通じて、ハイドロゲルを用いた悪性中皮腫のがん幹細胞マーカーの探索に取り組んだ。候補遺伝子としてSCL13A5を見出し、幹細胞性の誘導や治療抵抗性に関与する可能性や、酸化的リン酸化へのシフトに関与している可能性を示した。研究成果を第112回日本病理学会総会で発表し、現在は論文化に取り組んでいる。ハイドロゲルを用いるがん幹細胞性誘導は、既存の手法とは異なるアプローチであり、がん幹細胞マーカー探索の新しい方法の一つとなり、研究成果が社会に還元されることを期待している。
|